とらドラ9!
2008/12/22 Mon 01:55:36 [edit]
![]() | とらドラ!〈9〉 (電撃文庫) (2008/10/10) 竹宮 ゆゆこ 商品詳細を見る |
【評価……A】
舞台 ★★★★★★★★☆☆ … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆ … 8
人物 ★★★★★★★★★☆ … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆ … 8
挿絵 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
オススメ度 ★★★★★★★★★☆ … 9
リアリティ ★★★★★★★★★☆ … 9
青春 ★★★★★★★★★☆ … 9
修学旅行の冬の雪山で思いがけず大河の本当の気持ちを知ってしまった竜児。大河はそのとき事故によって意識朦朧となっており、しゃべってしまったことを覚えていなかった。そんな大河を前に竜児は態度を決めかねるが……。 そして高校二年も残りわずかとなり、竜児は進路をめぐって泰子と衝突。なにかと先の見えない五里霧中の竜児に、一方では実乃梨と亜美が本当のところを見せはじめる――。 超弩級ラブコメもいよいよ佳境に突入。目が離せない第9弾! |
【感想】 <前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>
元ラブコメ作品「とらドラ!」第9巻です。
だああっ、何だこの重苦しさは!
8巻で僅かに残っていたラブコメのコメディ部分が見事に消え去ってシリアス全開です。
学生時代にタイムスリップしたかのように、切なさが蘇ってきます。
誰しも避けて通ることはできない壁にぶつかる竜児が、昔の自分を見ているようで心が痛い……。
まさかライトノベルで、こんなに生々しい現実的な話と直面することになるとは思わなかったですよ。
何だか、登場人物たちの心情とシンクロしすぎていて、読んでいる間、溜息が止まりませんでした。
こうして感想を書いている間も、9巻の内容を思い出しては胸がえぐられるかのような思いになります。
◆キャラクター別感想
▼ 高須竜児
大河から見ても心配になるくらい終始悩みっぱなし。
恋愛関係だけに限らず、今回は進路の話まで絡んできて、精神的にかなり参ってます。
色んな感情が限界を超えて漏れ出している様は、高2の少年らしさが全面に出ていました。
そりゃあ大人から見ればガキだと一蹴されてしまいかねない物の考え方かもしれないけれど、現実に対して逃げずに真剣に考えようとしている姿勢は凄いと思います。
家事全般などを完璧すぎるほどにこなしている方が異常であって、この姿こそが年齢的に自然だと思うんですよね。
だからこそ、共感できるし、報われてほしいと願わずにいられません。
前向きに生きている実乃梨を見て、自分もそのように同じようになりたいと思うところなんかは素直に偉いなぁと思いますよ。
逃げ出したくてたまらなくて、死んでしまえば楽になるかなぁと馬鹿なことを考えていた自分と比べると、天と地ほどの差があります。
しっかし、進路って難しいですよねぇ。
社会に出てからでないと、どれが正解に近いルートなのかなんて分かりませんよ。
高校生で先を見据えて進むことができる人間なんて、一握りです。
そういう意味でも、竜児は立派だと思うんですけどねー。
泰子の言い分は今巻だけ見ているとあまりに勝手ですが、何となく言いたいことが分かるのは年を取ったからでしょうか。
でも、泰子は言葉が足らなさすぎでしたね。
もっと真面目に意見の交換を設けなければいけなかったと思いますね。
▼ 櫛枝実乃梨
あまりこう評したくはないんだけど、本当に強い娘だなと思います。
陰で泣いたり悩んだりすることはあっても、ひとたび決めたら迷わず突き進む姿は格好良いよなぁ、と。
みのりんの場合は、意志が強いを通り越して頑固者といった方が正しいような気もしますがね。
今回、みのりんが語った決意は全面的には納得できるというものではありません。
彼女にとっては無理な選択だったということでしょうが、両立は決して不可能だったものではないはずです。
みのりんの口から語られた本音には、潔さを感じる反面、読者である自分はそこまで気持ちが追いつけなかったなぁ。
まぁ、これはきっと人によって感じ方が違うんでしょうね。
7,8巻の流れでこれ以上引っ張るのは煮え切らないと感じる人もいるでしょうし。
▼ 逢坂大河
傍若無人な性格だったはずが、いつの間にかに作品一健気なキャラとなっていますね。
好きな人(竜児)を親友(実乃梨)とくっ付けようとせざる得ない立場なので、どうしても際立ちます。
大河の行動は、実乃梨に言わせれば「逃避」なのかなぁ。
しかし、恋と友情を天秤に掛けることはそんな間違いではないと思うんですよね。
確かに実乃梨の考え方は真理だとは思いますけど、そこまで求めるのは酷なのではないでしょうか。
▼ 川嶋亜美
亜美の心の叫びが哀しすぎる……。
竜児に対して、ようやく口を開いたけれど、肝心の自分の思いは未だ伏せたまま。
分かってほしいという気持ちは、決してエゴじゃないと思います。
竜児が鈍感ということもあるけど、亜美も攻撃的な態度しか取れないからなぁ。
お互いが似ているところを持っていると感じながらも、不器用な性格ゆえにもう一歩が踏み出せない二人をみていると、もどかしくてたまりません。
怖くて二の句が継げないは誰しも一緒のことなのにね。
ここに来て、自分の中では一番幸せになって欲しい人物となりました。
もともと芽がなかった亜美ENDも、今回事実上なくなったも同然ですしね……。
せめて、竜児には亜美の想いに気付いてもらいたい。
そして、軽くスルーせずにしっかりと悩んでもらいたい。
実乃梨ほど濃いものでなくてもいいから。
◆総評
本編が228ページ程度とは思えないぐらい、登場人物たちの想いがギュウギュウに詰まった内容でした。
竜児視点で進むにも関わらず、彼だけではなく大河や実乃梨や亜美の切なく苦しい想いが伝わってくる文章には感服します。
肉付けこそライトノベルですが、中身は等身大のキャラクターたちによる青春物語なので、リアリティが半端じゃありません。
高校生に是非とも読んで欲しい作品ですね。
アニメでは感じ取れない微細な心の動きなどが伝わってきますから、原作の方を強く推奨します。
ところで、作品中で一番まともな大人なのって独身(30)ではなかろうか。
あとは兄貴の両親ぐらいしかいないような気がする……。
テーマ: ライトノベル
ジャンル: 小説・文学
タグ: 書評 とらドラ! 竹宮ゆゆこ ヤス 評価A
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この記事に対するコメント
いつまでもこのままではいられない
『とらドラでは、進路の話も絡んでくる』という話は聞いていました。で、今まで影も形もなかったのに、ここにきて突然絡んできましたねえ。主要キャラ以外の人間って、どうして期日内に進路希望調査票を提出できるんでしょうね。「たとえ他のみんながスラスラ書けたとしても、俺は今、この紙になんて書けばいいかわからねえ!」と叫びたい気分です。
僕自身、バイト経験が少ないことに引け目を感じています。んで、改めて思ったことは、「お金を稼げる人間が偉くて、そうでない人間は、お金を稼げる人間の言うことを聞かなくちゃならない」ということでしょうか。 バイトで培った経験・人脈を活かして就職を決めちゃうのとか、それなりにある話のような気がします。
というわけで、バイトをしているみのりんは偉くて、これまでバイトをしてこなかった竜児と大河は子供だ、ということになるでしょうか。 それにしても、あれだけ卓越した家事能力を持つ竜児が、なりたいものがなくて悩むなんて、想像もしていませんでした。あれだけの家事に燃やせる意欲があれば、やりがいを持って選択できる仕事の幅も、かなり多そうな気がします。
大河についても、今まで子供でいたことのツケが回ってきた感じでしょうか。『家が裕福だから働かなくていい』というのはともかくとして、結構僕の高校時代の姿勢と似ているかも、と感じます。将来のために必要なことなんて、まるで考えていませんでした。 ところで、大河のラノベ的な強さが本物なら、格闘技の世界を目指すのも一興なんじゃないかな、と全然本筋と関係ないことを思ったりもします。
それにしても、これまで駄目人間っぷりが加速していた恋ヶ窪先生が、進路問題に入って急にまともになることには、戸惑いを隠しきれませんでした。「大丈夫、大学→就職までの進路のことなら自信あるから」といった感じでしょうか。 竜児の問題の場合、射程圏内の大学と預金残高をばしっと照らし合わせた上で三者面談をすれば、自ずと道は見えてくるんじゃないかな、と思いました。 目標金額に届かないことがはっきりすれば、泰子もバイトを反対しにくくなるでしょうし。
親の立場からすれば、「金が心配だから大学には行けねえ」なんて子供に言われたら、なにくそと思うのもわからなくはないんですけどねえ。
亜美の、失敗したから逃げ出したいという気持ちはよく分かります。 4巻終了くらいの時点からやり直せたら、まだチャンスは充分あるでしょうにね。
全10巻のとらドラ本編の中で、9巻が一番僕好みだったと思います。
URL | 紫電 #hfCY9RgE
2010/08/01 20:12 * 編集 *
>紫電さん
下手すると、鬱になりかねない内容だったと記憶しています。
進路問題を取り扱うラノベは珍しいわけでもないんですが、それでも真正面からぶつかる作品はなかなか見られませんね。
外野がいくら騒いでいても、当事者が耳を傾けられる余裕があるかどうかは別問題なんでしょうなぁ。
9巻が素晴らしい内容であったのは同意できます。
好みでいえば、4巻のような楽しい雰囲気の方が好きですが。
下手すると、鬱になりかねない内容だったと記憶しています。
進路問題を取り扱うラノベは珍しいわけでもないんですが、それでも真正面からぶつかる作品はなかなか見られませんね。
外野がいくら騒いでいても、当事者が耳を傾けられる余裕があるかどうかは別問題なんでしょうなぁ。
9巻が素晴らしい内容であったのは同意できます。
好みでいえば、4巻のような楽しい雰囲気の方が好きですが。
URL | 秋空翔 #3huMpp/w
2010/08/05 22:34 * 編集 *
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