涼宮ハルヒの直観
2020/11/30 Mon 01:31:33 [edit]
【評価……B】
発想 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 設定 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 物語 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6 人物 ★★★★★★★★☆☆ … 8 文章 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 挿絵 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 | ラブコメ ミステリー 青春 | ★★★★★★☆☆☆☆ … 6 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 |
初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。 だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。 ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ? 天下無双の大人気シリーズ第12巻! |
【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>
「涼宮ハルヒ」シリーズ第12弾。
帯にある「おかえり!ハルヒ!ー王道にして最前線ー」という言葉が9年半振りの帰還を祝福しています。
まさか今になって本作の続きが読めるとは思っていませんでした。
当時夢中になっていた人達はご存じの通り、一度この作品は長期間の中断をしています。
前後編の前半として発表された「分裂」から延期が長引き、4年の空白期間を挟んで「驚愕」が発売された時は祭りとなったものです。
ただそこである程度区切りが付けられ、ファンも満足してしまった人が多かったように見受けられました。
まぁ、続きを諦めていたというのが正しいところかもしれませんが。
そんな中で発売された最新刊。
率直な感想としては、面白さより先に楽しいという気持ちで心が満たされました。
短編集というより、長さの異なる3つの話が収録されています。
うち2本は過去に特典等で掲載されたもので、残り1本が書き下ろし。
いずれも初読みとなりました。
【あてずっぽナンバーズ】
SOS団で初詣に繰り出すお話。
2013年に刊行された「いとうのいぢ画集 ハルヒ百花」に収録されていました。
懐かしい面々が帰ってきたと実感できるエピソード。
特別なことは起きなくてもキャラの掛け合いだけでほっこりできる安心感があります。
ハルヒを先頭にして、みくるを引き連れ、長門が無言で付き添い、古泉がすました顔で笑い、キョンがやれやれと呟く。
全国の学校でSOS団らしきサークルやら部活が増大するのも納得できる、ある種完成された青春がそこにありました。
「憂鬱」や「溜息」の頃の不安定さはなく、ハルヒが皆のことを大切にしていることが伝わる時期の話なので実に微笑ましいですね。
【七不思議オーバータイム】
SOS団員達による七不思議創作物語。
スニーカー文庫30周年記念で1号限りの復活となった「ザ・スニーカーLEGEND」で掲載されていた話です。
言われてみれば、不思議を追い求めるハルヒにしては七不思議を連想するのが遅かったですね。
現実的には七不思議なんて、噂ですら漫画や小説の中にしか存在しないものですけど。
古泉の真骨頂というべき会話劇ですね。
セリフ量に関して、魅力的なヒロイン3人組よりも古泉の方が圧倒的に多かったことを思い出しました。
いつも通りハルヒを平穏かつ適度に刺激のある生活を送ってもらうための仕込みをキョンも手助けするわけですけど、あまり緊迫感もないので平坦な印象。
キャラよりも七不思議の内容に焦点が当てているので惜しい感じがしました。
【鶴屋さんの挑戦】
今回唯一の書き下ろし長編。
表題通り、SOS団名誉顧問の鶴屋さんがSOS団に対してクイズ形式で問う推理モノです。
280ページ以上のボリュームとなっており、単純なページ数だけでいえば「消失」を上回ります。
「直観」のメインディッシュとなるわけですが、あくまで長くても番外編ですね。
ミステリー小説における哲学を語り合う序盤は作者の趣味全開って感じ。
元々意図的に嵐の孤島や吹雪の山荘などに頭から突っ込んでいくスタイルで、舞台だけではなくミステリー要素は随所に挿入されるシリーズでした。
しかし、ここまで引用を多用してコテコテの推理小説に仕立てたのは、いつかやりたいと思っていたことなんでしょうね。
真剣に挑んだわけではないものの、仕掛けられた謎や伏線は半分程度しか解けませんでした。
作中にもあるメタ的な視点により解読できたこともあり、純粋に推理できたものは多くはありません。
良質な推理小説を真面目に考えて解き明かすことも楽しいのですが、どちらかといえば深くは考えず騙されたりミスリードに驚かされる方が楽しめると思ったのでこれで良かったと思います。
それにしても「分裂」以降、同作者の「学校を出よう!」みたいにSF理論やミステリー要素が増えましたね。
谷川流という作者が好きな人にとっては読み応えのあるエピソードだったのではないでしょうか。
一方で「涼宮ハルヒ」シリーズがここまで人気を博した理由は別なんですよね。
ハルヒを始めとしたキャラの活き活きとした魅力、キョンの独特なモノローグ、のめり込む物語の構成力など。
良くも悪くも大衆的な要素で、作者の執筆欲とは相反するものだったのかなと予想できます。
求めていたものによって評価が二分されるのは致し方がない話だったと思います。
要するに。
「涼宮ハルヒ」シリーズでなければ成り立たない話ではなかった。
「涼宮ハルヒ」シリーズでなければ注目される話ではなかった。
でも「涼宮ハルヒ」シリーズとして読めて楽しかった。
個人的な落としどころとしては、こんなところですね。
とにかくまた読むことができて良かったです。
相変わらずライトノベルの名に相応しい軽やかな文体ですらすらと読めますね。
鶴屋さんのくだけた喋りが引っ掛かることなく音読できるのが何気に凄い。
いとうのいぢさんの絵柄は線が濃くなり、色塗りがアニメ的になっていて、最も年月の経過を感じさせる要素でした。
続きは書いてくれるのかなぁ。
一応今後の伏線になりそうな匂いだけは漂わせていましたし、あとがきの最後の言葉からして意欲はないわけではなさそう。
読了後に思わず「消失」のアニメ映画を見てハルヒ熱が再燃してしまい、原作を読み直し中だったりするので、早くも新刊を渇望しています。
▼ | 9年半振りに帰ってきたSOS団の日常が同窓会的な懐かしさを感じさせます |
テーマ: ライトノベル
ジャンル: 小説・文学
タグ: 書評 涼宮ハルヒの憂鬱 谷川流 いとうのいぢ 評価B
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