灼熱の小早川さん
2012/07/20 Fri 23:59:39 [edit]
![]() | 灼熱の小早川さん (ガガガ文庫) (2011/09/17) 田中 ロミオ 商品詳細を見る |
【評価……B+】
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8 設定 ★★★★★★★★☆☆ … 8 物語 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6 人物 ★★★★★★★★☆☆ … 8 文章 ★★★★★★★★☆☆ … 8 挿絵 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 | 青春 ラブコメ リアリティ 構成 | ★★★★★★★☆☆☆ … 7 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 ★★★★★★★★☆☆ … 8 ★★★☆☆☆☆☆☆☆ … 3 |
人間関係も勉強もそつなくこなし、万事如才ない高校生となった飯嶋直幸。県下でもトップレベルの進学校に入学した彼は、なに不自由ない学園生活を手にした。伝統と自粛のバランス――そんな口当たりのいい雰囲気に突然水を差したのは、クラス代表となった小早川千尋。代表に立候補し、履行の邪魔なので副代表は不要と言いはなった眼鏡女子だ。常にテンション高め、ガチガチの規律でクラスを混乱に陥れる彼女のその手に、直幸は炎の剣を幻視する。そして彼女の心の闇を知るのだが――。 田中ロミオ最新作は、ヒロイン観察系ラブコメ!? |
【感想】
田中ロミオ氏が作り上げる新感覚ラブコメ。
「AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~」と似て非なる作品です。
一つの作品で、これほど評価が自分の中で割れるものはなかったかもしれません。
メチャクチャ面白かったと思うと同時に読了感の酷さにムカムカとしました。
校則を守り、風紀の乱れを徹底的に正そうとするクラス代表・小早川千尋。
厳しく律しようとする彼女は、明らかにクラスから浮いた存在だった。
そんな彼女を抑制するために、クラスメイト達から担がれた主人公・飯嶋直幸は、世渡り上手なスキルを活用して、彼女に取り込もうとするのだが――といったストーリー。
「炎の剣」なんて単語が登場するのでSF要素が混入するのかと思いきや、至極真っ当な学園モノでした。
客観的に見て正しいことをしてるのに孤立する千尋を観察しているうちに、クラス内のポジショニングを忘れて手助けに走る直幸の姿が胸を熱くさせてくれます。
たった二人でクラス行事や仕事をこなす彼らを見ていると、もどかしさと悔しさが募る一方でした。
それでも、距離を縮めていく二人が報われ、自分勝手なクラスメイト達には痛快なオチが容易されているのだと信じ、読み進めていったのですが……。
あえて一言で集約するならば……惜しい。
明確なテーマを掲げ、着実に積み上げていったアプローチを台無しにするラストが勿体無さすぎる。
急展開といった類のものではなく、放り投げたとしか言いようがありません。
確かに、決着が非常に難しい題材ではあると思うんですよ。
学校のクラス内の空気は、数あるコミュニティの中でも特殊で、日本人特有の同調気質が悪い方へと働いた結果、いじめなどが生まれたりするわけです。
個別で対応すれば、誰だってイケないことだと理解しているのに、集団では理性よりも輪を保つ意識に傾いてしまいます。
これは、兼ねてより日本人の抱える悪癖でしょう。
それを真正面から捉え、生々しくて歯がゆい人間関係を描いたら、この人の右に出る方はそうはいないでしょうね。
良い意味で、嫌悪感を抱かせる内容となっています。
例えば、バットエンドでもキッチリ描ききっているのであれば、相応の評価を得られると思うんですよ。
でも、これは妥協したのか、問題提示をしたかったのか、とにかくエンターテイメント作品としては酷いラストです。
夢落ちばりに理不尽な方向転換に納得できる要素が見当たりません。
著者の実力を持ってすれば、感動的な盛り上がりを見せつけることも出来ただろうに、勿体無い。
「人類は衰退しました」が特異な文体を求められることもあって、通常のロミオ節を久々に読みましたが、やはり良いですね。
深夜に読み始めたら、スルスルと入ってくる文章に虜となり、途中で本を閉じられなくなってしまいました。
クラスメイトを愚者と罵り、過激な発言が多い千尋の揺れる心情を垣間見る方法が新鮮でしたね。
気丈に振る舞いながらも、たまに凹んでしまう彼女の弱さに、完璧な人間などいないのだと改めて認識させられました。
直幸が表面上の付き合いを続ける友人達と比べると、如何に千尋の心がピュアであったかを思い知ります。
時が経つにつれて、どんどん愛おしい存在となっていきました。
面白かったのは確かなんですけどねぇ。
残り数ページでの超展開が、つくづく勿体無いと感じました。
▼ | ラストの駆け足が勿体無いと感じる程にスクールカーストがリアルに描かれています |
テーマ: ライトノベル
ジャンル: 小説・文学
タグ: 書評 灼熱の小早川さん 田中ロミオ 西邑 評価B+
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