暴風ガールズファイト
2012/06/19 Tue 23:59:48 [edit]
![]() | 暴風ガールズファイト (ファミ通文庫) (2007/09/29) 佐々原 史緒 商品詳細を見る |
【評価……B+】
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8 設定 ★★★★★★★☆☆☆ … 7 物語 ★★★★★★★★☆☆ … 8 人物 ★★★★★★★★☆☆ … 8 文章 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6 挿絵 ★★★★☆☆☆☆☆☆ … 4 | 青春 スポコン 燃え 友情 | ★★★★★★★★☆☆ … 8 ★★★★★★★★☆☆ … 8 ★★★★★★★★☆☆ … 8 ★★★★★★★★☆☆ … 8 |
マリア様が見守る聖ヴェリタス女学院。高等部に進学した麻生広海は、親友との別れによる喪失感と何ら変わり映えのしない高校生活を前にすでに鬱屈していた。 ところが!そんな広海の前に吹き荒れる五十嵐千果というちびっこい嵐!巻き込まれるがままなぜか高校ラクロス日本一を目指して立ちあがることに!……ってつーかラクロスって何よ?ウチにそんな部あったっけ?? 汗と涙とド根性!空前絶後の美少女スポ根グラフィティ、待望の試合開始! |
【感想】
カトリック系女子校でラクロス部を設立し、青春を捧げんとする乙女達のスポコン小説。
同好会を部へと昇格させるために、少女達が汗水流す燃える作品となっています。
面白かった!
いやー、良い物を読ませて頂きました。
第1巻が刊行されたのが2007年9月。
最初に注目したのは「このライトノベルがすごい!2009」にて上位にランクインしたときでした。
名前すら知らない作品だったこともあり、興味が湧いてすぐに購入したことを覚えています。
しかし、それから読もうとする気分になかなかならず、3年半以上も積んでいました。
次のキッカケは、「ショートストーリーズ 3分間のボーイ・ミーツ・ガール」。
ファミ通文庫の作家陣による短編集にて、著者の作品はクオリティが頭一つ抜けていました。
綺麗な文章と淡々しい雰囲気に心を揺さぶられました。
作者の名前を覚えようとしたところで、本書の作者であることに気が付いたというわけです。
ミッションスクールが舞台のラノベといえば、やはり「マリア様がみてる」を思い出します。
女子校という環境が百合を連想させますが、この学校に登場する少女達はそんな甘い雰囲気など持っておりません。
クールな委員長キャラかと思いきや、中身は計算高くて腹黒い麻生広美を主人公に構えている時点で、生温い空気は早々に吹っ飛びます。
エスカレーター式に進学する生徒が大勢締める中で優等生を演じていた彼女が、高校から入学してきた帰国子女・五十嵐千果の超絶的なエネルギーの渦に巻き込まれて、仮面がボロボロと剥がれていく展開が楽しい。
ラクロス日本一を目指す五十嵐が生み出す大きなうねりに引き込まれるようにして、次々と個性豊かな仲間が集まっていく流れが、実に爽快かつ愉快です。
生まれも育ちも完璧お嬢様でありながら、本性は言葉使いが物騒なほどの負けず嫌い・宮前雪乃。
大阪から転入してきたサブカル事情に詳しい・嶋あかね。
先輩を敬う気持ちが欠けている礼儀知らずなグラマラス中学生・小坂依奈。
数少ないスポーツ経験者で真面目な常識人・長谷川悠里。
おどおどした性格の部長・大西くららと、彼女をサポートするクールビューティーな黒田苑子。
まだ本来の女子ラクロスに必要なプレイヤー数は確保できていませんけど、それを補って余りあるキャラの濃さとパワーに圧倒されます。
ワイワイと賑やかに騒いでいても、一人一人確固とした存在を放っているので、キャラが潰れてしまうなんてことはありません。
個人的なお気に入りは、どんどん黒くなっていく麻生さん。
人間関係において、ナチュラルに上側のポジションにつくこの娘の呼称は、さん付けがよく似合いますw
部員集めに紙幅を費やしているため、試合に割くページはそれほど多くはありません。
それでも短いながらも詰め込まれた熱気に汗が伝わってくるようで、夢中になって読み耽りました。
安易にキャラ推しで構成する展開にしておらず、スポコン物として熱くなれるのは貴重です。
スポーツは、ご都合主義を取っ払った汗と涙と情熱で燃え上がるのが至高であると考えているので、本作は非常に楽しめました。
上記に記述した通り、文章に惹かれて買ったわけですが、思っていたのとはちょっと違いましたね。
冒頭を読んだ時、買ったのは失敗だったかな?と疑ってしまいました。
というのも、背景描写の不足を節々で感じ取れるからなんですよ。
麻生広美の一人称で語られるため、死角が生まれやすく、行き届いていない部分が多々あります。
5H1Wのうち、who、when、whereの記述が明らかに足りません。
特に舞台が不鮮明であると、頭の中で想像がし辛くなってしまい、もどかしくなります。
ラクロスの知識は、ほんの少しだけあったので、一応問題なく想像出来ました。
全く観たことがない人にとっては、イメージが湧き辛かったかもしれません。
その一方で、会話の前後に誰が喋っているのかという説明は、半分以上カットされているといっても過言ではないのに、こちらは驚くほどに把握しやすくなっています。
語尾で色分けするような単調さではなく、自然と言葉使いに差をつけており、口調で判断出来ます。
まさにキャラが生きているような感覚で、声色の違いを読み取ることが出来ました。
数年前の作品なので、ここから更に腕を磨きあげていったのかもしれませんね。
イラストは、正直なところ残念な出来です。
表紙やカラーイラストで損をしている部分は、何割かあるでしょう。
まだ挿絵は良い絵も混ざっていたりするので、惜しいなぁと思います。
2巻で打ち切りにされてしまっているのが、とても悔しいですね。
そうだとしても読むことが出来て良かったと思いますし、お勧めもしたくなる作品ですね。
▼ | 嵐の名を持つ少女に巻き込まれた少女達がスポーツにのめり込んでいく熱血スポコンラノベ |
テーマ: ライトノベル
ジャンル: 小説・文学
タグ: 書評 暴風ガールズファイト 佐々原史緒 倉藤倖 評価B+
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この記事に対するコメント
ラクロス時代
売れなくて2巻で打ち切られたシリーズもの。面白ければ面白いほど、もどかしさが増大するというのに、これめっちゃ燃えるじゃないですかぁ!この人の著作シリーズが巻末に載っていますが、絶望的に覚えづらいタイトルセンスだと思いました。この作品、いっそ『ラクロスガールズ』じゃいけなかったのかなあとか、『暴風ガールズファイト』を4文字に略すにはどうすればいいんだろう、と悶々としたりしました。あ、新作の『日本上空いらっしゃいませ』はわりと覚えやすいタイトルだと思います。
あと、ひょっとしてファミ通文庫と相性の悪い作風だったんじゃないでしょうか。ファミ通文庫なら、スポ魂よりは、推理・恋愛・バカ騒ぎの方が生き残りやすい気がします。
表紙サイズ。ラクロスのクロスを思いっきり振ってボールを打ち出すような絵がほしいところなんですけど、そうしたら、相対的に女の子の身体が小さくなってしまいます。
メイド・シスター・黒髪ロング。ネコ耳・ネコしっぽ・ネコグローブ。萌え要素なら充分納まるラノベの表紙サイズも、スポ魂全開のアクロバティックな動きを表現しようと思ったら、コミックサイズに比べて圧倒的に不利になると考えました。
希望と適性の一致による自然体な魅力。長谷川悠里が僕の心を惹きます。『テルミー』の今は亡き檜山蘭を重ねている部分も認めます。
小坂依奈とか、ああいう設定なのによくもまあ暴走せずに物語内に納まるなあ、と感心しています。他がぶっ飛んでるので、相対的に丸くなるのかもしれませんが。
お嬢様が泥臭いっていうのは意外といいギャップになるかも、と思いました。宮前は、ラクロスの試合で裏方としてチームの汚れ役みたいなプレーに徹したらいいなあ、とか思いました。エースキラーみたいな。
主人公の麻生広海は級長設定による観察眼が随所で生きてて面白かったです。相方がパワフルなら、ツッコミも相当濃くないとやっていけませんからね。
表紙の五十嵐千果は、ちびっこ元気系なのに帰国子女で英語の発音がよくて、しかも日本語と英語の切り替えが完璧なので新鮮でした。この特徴はすごくアニメ映えするだろうなあ、と夢想します。
嶋あかねは、一人いると助かる便利キャラと言えます。この系統が一人いれば、使えるネタも増えますしね。
女性作家特有の、細部の設定へのリアリティが好みでした。礼拝堂が礼拝堂の形をしていないとか、エロゲ脳ではなかなか思いつきません。お弁当を包むナプキンで、一人一人の個性を表現するのもいい工夫です
マリみてじゃなくて、等身大の女子高生たちの日常がここにはあった気がします。
長いポニーテールの機能性を疑問視する声は、ちらっと小耳に挟んだことがないわけじゃない気がしますが、改めて提唱されると、決して無視できない由々しき問題だと思いました。
キャラが多くなればなるほど、一人一人に割ける見せ場の割合や、使える口調、リアクションのパターンなどが難しくなっていきますが、そういうのが上手い作家さんだなあ、と思いました。
部員が一人増えるごとに物語の中に引き込まれていきました。試合をする頃には、観客としてすぐ傍で見ていた感じです。
今日2巻を読み終えたばかりなので、2巻の内容に触れずに書くのが大変です。
あと、プリキュアを見ておけばプリキュアネタも楽しめたのになあ、と思いました。
ラクロスのことは全然知らなかった僕ですが、これからは、ラクロスものバッチ来い、という感じです。ぶっちゃけると、実際のプレーよりもアニメでラクロスが見たいと思いました。
URL | 紫電 #-
2012/06/20 01:19 * 編集 *
>紫電さん
ファミ通文庫でなければ、とは僕も思いました。
とはいえ、作風の問題ではなく、注目度という意味合いで。
電撃ならばどの本でも多少売れますし、もう少し売れていたら作品の良さが口コミで広がったのではないかな、と。
分母が少な過ぎると、話題にも上がりませんからねぇ。
タイトルに関しては、漢字+カタカナは並びが良いなと思いました。
表紙絵は、売り上げに影響与えたでしょうねー。
構図の工夫は、確かに欲しかったところです。
良キャラばかりで、つい語りたくなる気持ち、分かります。
中でも、お気に入りは長谷川悠里ですか。
濃い面子の中では、比較的地味な方ですけど、だからこそ実直さが光っていたと思います。
宮前がエースキラーというと、黒い想像しか思い浮かびませんねw
嶋のおかげで、コメディの幅が広がったような気がしました。
ポニテは、リアル女性の話を聞く限りでは、結構痛いらしいですね。
「マリ見て」と比べると現実路線ですけど、リアルかというとそうでもないので、その辺りはラノベらしいなと思いました。
ファミ通文庫でなければ、とは僕も思いました。
とはいえ、作風の問題ではなく、注目度という意味合いで。
電撃ならばどの本でも多少売れますし、もう少し売れていたら作品の良さが口コミで広がったのではないかな、と。
分母が少な過ぎると、話題にも上がりませんからねぇ。
タイトルに関しては、漢字+カタカナは並びが良いなと思いました。
表紙絵は、売り上げに影響与えたでしょうねー。
構図の工夫は、確かに欲しかったところです。
良キャラばかりで、つい語りたくなる気持ち、分かります。
中でも、お気に入りは長谷川悠里ですか。
濃い面子の中では、比較的地味な方ですけど、だからこそ実直さが光っていたと思います。
宮前がエースキラーというと、黒い想像しか思い浮かびませんねw
嶋のおかげで、コメディの幅が広がったような気がしました。
ポニテは、リアル女性の話を聞く限りでは、結構痛いらしいですね。
「マリ見て」と比べると現実路線ですけど、リアルかというとそうでもないので、その辺りはラノベらしいなと思いました。
URL | 秋空翔 #3huMpp/w
2012/06/23 01:52 * 編集 *
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