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明日へと続く記憶

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、ライトノベルの感想を書いたり、絵を描いたりしています。

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塩の街 

塩の街塩の街
(2007/06)
有川 浩

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読書期間:2012/3/27~2012/4/1

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 なし
恋愛
世界観
完成度



 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★
 … 9




 塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた……。
 第10回電撃大賞<大賞>受賞作にて有川浩のデビュー作でもある『塩の街』が、本編大幅改稿、番外編短編四篇を加えた大ボリュームでハードカバー単行本として刊行される。

【感想】


数々の名作を発表している有川浩さんのデビュー作。

元は電撃文庫で出版されたものを改稿&加筆してハードカバーとして売り出されたものです。
のちに文庫版でも出されているので、今はそちらから入手するのが最適でしょうね。
ハードカバーは、やっぱり重いし持ち運びに不便です。

有川浩さんというと「図書館戦争」シリーズを連想する人は多いでしょう。
自分もその例に漏れず、アニメ版「図書館戦争」のイメージが下地にありました。
正直、あのアニメは悪くないところもあったものの、設定が突飛な割には慢性的な説明不足で、世界観の歪さが浮いてて理不尽さが納得できませんでした。
そんなわけで、有川浩さんの本にはあまり興味が湧かなかった経緯があります。
しかし、実際にこの「塩の街」を読んでみたら、いかに間違った認識だったのかと思い知らされました。

文句なしに面白かったです。

突如、世界に飛来した巨大な白い隕石。
その塊が落下したのと時を同じくして、人が塩になってしまう現象が起こる。
世界の人口は大幅に削れ、ライフラインは断絶し、世は終末へと向かっていた。
一組の男女の恋物語が、世界に多大なる影響を及ぼすとは知らずに……というストーリー。

これが本当に電撃文庫から発売されたのかと、読み終わった後でも信じ難いです。
ハードカバーで刊行するにあたって文章を見直ししたんでしょうが、それでも昨今のラノベとは趣がまるで異なります。
単に物語が重いだけなら他にも多くあるんですけど、地に足が付いていると言いますか、テーマが一貫としていて、隙のない構成となっています。
なるほどなぁ、担当がハードカバーで出したがるわけだ。

塩の柱となってしまう通称・塩害の設定は、SFとファンタジーが8:2といった比率でしょうか。
塩害が起こる理由は推察されていますが、そもそも何故落ちてきたのかは一切不明です。
土台となる舞台に関しては、設定そのままを受け取るほかありません。

一見奇抜な設定が売りに見えますが、実際のところは世界を舞台にしたラブストーリーが主軸です。
塩害で孤立した18歳の少女・真奈と、彼女に手を差し伸べた二十代後半の男・秋庭
人の気配が立ち消えた街で、二人の微妙な距離感がほろ苦くも生々しく描かれています。
女のために仕事をする男と、男と一緒に居たいために引き留める女。
どこにでも転がっているかのような男女関係の縮図が、この本に凝縮されています。

自分が男だからなんでしょうが、感情よりも理屈で動いてしまう秋庭の気持ちに共感してしまいますね。
真奈の感情論が駄目というわけではなく、心の強さに感心してしまうほどなんですが、それを理解した上で、この女を守りたいという方向へ思考がシフトしてしまう秋庭は責められません。
ここまで想われてしまうと、やるしかないよなー。

クライマックスは、どうやら電撃文庫版と大幅に内容が異なるようで、ちょっと興味が沸きました。
あっさりと思わってしまったので、あれ?と思わないでもなかったり。
物語の主題は、キッチリと描ききっているので、これはこれでいいと思いますけどね。

後半の半分は「塩の街、その後」と題して、短編が4本収録されています。
これが電撃文庫版ではなかったもののようで、ハードカバーで購入した最大の理由です。
ただ、面白いのは面白かったんですけど、少々蛇足気味に感じてしまいました。
昇ってきた階段をまた昇り直しているような感覚で、更なる高みへは望めなかったかなという印象です。

それにしても、電撃文庫版ではイラストが随分と不評ですね。
確かに、読了後に表紙絵を見てみましたが、想像図と全く違いますが。

デビュー作だとは思えないクオリティでした。
次に何を読むかまだ決めていませんが、有川浩さんの本は必ず読んでみたいと思います。

大人版ライトノベル、ジャンル・セカイ系ラブストーリー

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  塩の街  有川浩  評価A- 

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この記事に対するコメント

変遷

 本作は最初に電撃文庫から刊行されて、それからハードカバーで加筆版が出て、さらに角川文庫に収録されてますから、3種類の本が出ているころになりますね。 秋空翔さんも書かれているように、今から購入される方は、角川文庫版がお勧めかと思われます。秋空翔さんも、3種類集めてみる価値はあるかもしれません。
 電撃文庫で刊行された時は2004年ですので、その当時はまだライトノベルが天下をとってなかったはずです。その頃の新人のありふれたデビュー作につけたイラストとして考えるなら、まあ納得できるレベルです。大ヒットの予感がしても、当時はまだ思いきった装丁はできなかったのかもしれませんね。
 ただ、小説の内容は、2004年の作品だから古い、という感じは少しもしません。世界観も独特ですしね。

 塩の街。いったん身体の一部が塩になり始めたら絶対に助からないというのは、読んでて怖かったです。人間の身体が塩になるなんてことは、現在の常識では絶対にありえないことですからまだ幾分マシですけど、もっとありえそうなことだったら、トラウマになっていたと思います。 

 極限状態で何を望むかということが主題になっていると思います。 よく考えてみると、当事者たちの葛藤はごく自然なものですね。
 昔の正義の味方は、ほとんど無条件にみんなを守ってくれましたが、今では、まずは世界よりも大切な人を助けるのが最優先となっています。 実際、それが本当ですもんね。

 有川浩さんの作品は、「本音すぎると聞こえが悪いから当たり障りのない表現にしよう」という風潮の対極にあると思います。 で、その聞こえの悪い本音が醜いかって言うと全然そんなことなくて、むしろきれいなんですよねえ。

 あくまでご参考までに、読む順番のお勧めを考えてみました。 まずは自衛隊三部作の『空の中』、『海の底』、それらの続編の『クジラの彼』。 アニメから気持ちを切り替えられたら『図書館戦争』シリーズの6冊と『レインツリーの国』。 『シアター!』シリーズには、自衛隊三部作ほどの期待はされないように。 あと、幻冬舎文庫の『阪急電車』では、少なめなボリュームの中に、阪急電車沿線で生活されている人たちの群像劇が駅ごとに描かれている、なかなかの小品だと思います。


 このコメントを書くのに一週間かかりました。 僕の方もなかなかコメントできない周期がありますから、返信が遅くなっても大丈夫です。 ここのところは、返信がすごく早くて、1時間以内に返信があったりしたので、思わずお礼を書いた次第です。

URL | 紫電 #-

2012/06/05 00:46 * 編集 *

>紫電さん
3冊とも集めているんですか。
それだけでも特別な思い入れのある作家さんなんだなというのが窺えますね。
有川浩さんが電撃小説大賞に受賞したのは第10回のことですが、その昨年に壁井ユカコさんが「キーリ」で受賞しているので、2年連続で女性作家が大賞に輝いたことになるようです。
どちらの作品も今読んで見劣りするどころか、最近の作品にはない味わいが広がりますね。

00年代前半は、ちょうどセカイ系が流行っていた時期ですね。
それこそラノベでは「キーリ」や「イリヤの空、UFOの夏」などが評価を受けていましたが、「塩の街」は明らかに他のラノベと比べても対象年齢が上だと感じます。
これはまぁ電撃文庫版を読むと印象が変わるのかもしれませんが。

そういえば、紫電さんと違い、怖いという感覚は芽生えませんでした。
設定は上手く組み立てていましたし、物語にも熱中しましたが、一枚フィルターを挟んでいるような感覚がありましたね。
主人公と目線を合わせるものではなく、第三者として映画を見ている感じといいますか、作品と割り切って読んでいるところはありました。

まだ次に何を読むかは決めていませんが、一つの参考にはさせて頂きますね。

URL | 秋空翔 #3huMpp/w

2012/06/06 03:03 * 編集 *

この小説を電撃文庫から刊行した当初に読んで、それからずっと有川ファンを続けています。
今ではすっかりベストセラー作家という別世界の人になってしまったのがなんだか寂しくもありますけど。
個人的には塩の町はイラスト効果もあったんでしょうが、あまりラノベとしても違和感ありませんでしたよ。
逆に電撃文庫版に愛着があった身としては描き下ろしがちょっと蛇足に感じてしまいました。
お帰りなさい、秋葉さん。の余韻のある終わり方が好きだったんで。
この人の作品は品質が安定してるのでどれもオススメできます。
図書館戦争が一番高糖度ですね。

URL | またたび #-

2012/06/16 20:54 * 編集 *

>またたびさん
今となっては、ラノベ畑出身だと知らない人も多そうですね。
それだけに読んでいる人の多さも実感させられます。
「塩の街、その後」については、本書から読み始めた人間からしても、明らかに付け足された感じでしたね。
盛り上げまくっておきながら、スパッと終わらせた締め方に情緒を感じさせました。
高糖度……なるほど、甘ったるいのですか。分かりやすい言葉ですね。

URL | 秋空翔 #3huMpp/w

2012/06/17 00:19 * 編集 *

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