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明日へと続く記憶

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、ライトノベルの感想を書いたり、絵を描いたりしています。

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塩の街 

塩の街塩の街
(2007/06)
有川 浩

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読書期間:2012/3/27~2012/4/1

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 なし
恋愛
世界観
完成度



 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★
 … 9




 塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた……。
 第10回電撃大賞<大賞>受賞作にて有川浩のデビュー作でもある『塩の街』が、本編大幅改稿、番外編短編四篇を加えた大ボリュームでハードカバー単行本として刊行される。

【感想】


数々の名作を発表している有川浩さんのデビュー作。

元は電撃文庫で出版されたものを改稿&加筆してハードカバーとして売り出されたものです。
のちに文庫版でも出されているので、今はそちらから入手するのが最適でしょうね。
ハードカバーは、やっぱり重いし持ち運びに不便です。

有川浩さんというと「図書館戦争」シリーズを連想する人は多いでしょう。
自分もその例に漏れず、アニメ版「図書館戦争」のイメージが下地にありました。
正直、あのアニメは悪くないところもあったものの、設定が突飛な割には慢性的な説明不足で、世界観の歪さが浮いてて理不尽さが納得できませんでした。
そんなわけで、有川浩さんの本にはあまり興味が湧かなかった経緯があります。
しかし、実際にこの「塩の街」を読んでみたら、いかに間違った認識だったのかと思い知らされました。

文句なしに面白かったです。

突如、世界に飛来した巨大な白い隕石。
その塊が落下したのと時を同じくして、人が塩になってしまう現象が起こる。
世界の人口は大幅に削れ、ライフラインは断絶し、世は終末へと向かっていた。
一組の男女の恋物語が、世界に多大なる影響を及ぼすとは知らずに……というストーリー。

これが本当に電撃文庫から発売されたのかと、読み終わった後でも信じ難いです。
ハードカバーで刊行するにあたって文章を見直ししたんでしょうが、それでも昨今のラノベとは趣がまるで異なります。
単に物語が重いだけなら他にも多くあるんですけど、地に足が付いていると言いますか、テーマが一貫としていて、隙のない構成となっています。
なるほどなぁ、担当がハードカバーで出したがるわけだ。

塩の柱となってしまう通称・塩害の設定は、SFとファンタジーが8:2といった比率でしょうか。
塩害が起こる理由は推察されていますが、そもそも何故落ちてきたのかは一切不明です。
土台となる舞台に関しては、設定そのままを受け取るほかありません。

一見奇抜な設定が売りに見えますが、実際のところは世界を舞台にしたラブストーリーが主軸です。
塩害で孤立した18歳の少女・真奈と、彼女に手を差し伸べた二十代後半の男・秋庭
人の気配が立ち消えた街で、二人の微妙な距離感がほろ苦くも生々しく描かれています。
女のために仕事をする男と、男と一緒に居たいために引き留める女。
どこにでも転がっているかのような男女関係の縮図が、この本に凝縮されています。

自分が男だからなんでしょうが、感情よりも理屈で動いてしまう秋庭の気持ちに共感してしまいますね。
真奈の感情論が駄目というわけではなく、心の強さに感心してしまうほどなんですが、それを理解した上で、この女を守りたいという方向へ思考がシフトしてしまう秋庭は責められません。
ここまで想われてしまうと、やるしかないよなー。

クライマックスは、どうやら電撃文庫版と大幅に内容が異なるようで、ちょっと興味が沸きました。
あっさりと思わってしまったので、あれ?と思わないでもなかったり。
物語の主題は、キッチリと描ききっているので、これはこれでいいと思いますけどね。

後半の半分は「塩の街、その後」と題して、短編が4本収録されています。
これが電撃文庫版ではなかったもののようで、ハードカバーで購入した最大の理由です。
ただ、面白いのは面白かったんですけど、少々蛇足気味に感じてしまいました。
昇ってきた階段をまた昇り直しているような感覚で、更なる高みへは望めなかったかなという印象です。

それにしても、電撃文庫版ではイラストが随分と不評ですね。
確かに、読了後に表紙絵を見てみましたが、想像図と全く違いますが。

デビュー作だとは思えないクオリティでした。
次に何を読むかまだ決めていませんが、有川浩さんの本は必ず読んでみたいと思います。

大人版ライトノベル、ジャンル・セカイ系ラブストーリー

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  塩の街  有川浩  評価A- 

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ぼっちーズ 

ぼっちーズぼっちーズ
(2010/11)
入間 人間

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読書期間:2011/3/1~2011/3/11

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
構成
友情




 ★★★★★★☆☆☆ … 7
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7





 空を自由に飛びたいわけじゃない。
 愛と勇気を友達にしたいわけじゃない。
 明るく光る星一つ見つけたいわけじゃない。
 僕が望むのは、普通の人のまわりに、当たり前にあるべきもの。
 酸素とチョコレートの次ぐらいに、誰もが気軽に手にしているもの。
 漢字二文字で、世界の在り方を大きく変えてしまうもの。
 孤独と集団の壁を生み、ときに壊すもの。
 友達。
 生まれて初めてその単語を口にする。
 僕は独りぼっちだ。
 友達。
 それは僕にとっての途方もない奇跡の象徴。
 僕と他人が揃っても、『友達』にはならない。『ぼっち達』になる。
 僕の場合、1と1が合わさっても、2にはならない。
 なぜか1と1が、延々と続いていく。なぜだ。
 僕は祈る。どうか届け。できれば神様に。
 途方もない可能性を内包するご都合主義的な奇跡よ、降臨せよ。
 友達。
 僕はそれが、欲しい。
 すべてはあの忌まわしき楽園、秘密基地から抜け出す為に。

【感想】


独りぼっちたちが「友達とは何か?」と苦悩しながら生きる日々を描いた物語。

タイトルからも想像がつく通り、友達がいない者たちの青春群像劇です。
僕の小規模な奇跡」や「バカが全裸でやってくる」でお馴染みの大学が舞台。
著者の地元である岐阜や愛知を舞台に描かれることが多く、東海民としては、随所に仕込まれたローカルネタにニヤリとさせられてしまいますね。
この大学のモデルも何となく分かりますし。
東海では知らない人はいないスガキヤも、他地域の人だと置いてけぼりだったりするのかな。

誤解を恐れずに率直な感想を言わせてもらいますが、これは卑怯だなぁ。
最後の読了感が良すぎるおかげで、それまでの不満点が吹っ飛んでしまいますよ。
終わってみれば、面白かったなぁという印象しか残ってないという。
まさか、読み返したくなるとは思わなかったです。

軽く読みかえしただけでも、出るわ出るわ伏線の数々。
初読のときも思わせぶりな台詞や単語が並べてあるなとは思っていましたが、改めて気付かされることが本当に多いこと。
あれやこれやの由来の使い方が巧みで、幾度もうならされました。

ぼっちの在り方、友達の定義などは考えさせられますね。
作品内のぼっちが、人との距離感を測りかねる様が、リアリティがありすぎて苦笑いしてしまいます。
他人に己の領域を踏み込ませることを極度に躊躇い、対人に構えてしまうタイプっていますよねぇ。
自分自身にも、思い当たる節がいくつもあって、正直かなり胸が痛かった。
これは、少なくとも一度ぼっちの経験がないと書けない代物でしょう。

友達に限らず、人は人との関わり合いで人生が豊かになることを、この作品自体に教えてくれます。
傷みを覚えるほどに掘りまくった内面描写は、興味深いのは確かなんですが、面白いわけではないんですよね。
会話というツールで、共感や反発するところが、人間の面白いところなんだと思います。
臆病な人間が、たどたどしいコミュニケーションで友達を作ろうとしたり、生まれつつある友達という絆を大切に育もうとしたりする姿が、見ていて楽しくて心地良い気分になれます。

狙いは良かったんですが、ハードカバーで淡々と友達がいない話を続けるのは、退屈な面がありました。
後半の一点に種明かしが集中しているため、クイズの答えを教えてくれないような、もどかしさもあったり。
前述したとおり、読み終わった後は気分爽快なんですが、序盤から中盤にかけては、なかなかページをめくる手が進まくてキツかったです。

表紙イラストは、「六百六十円の事情」でも担当された宇木敦哉さん。
質感や背表紙など凝った作りとなっていて、目が惹きやすいところは商業的に成功していると思います。

難点もあったので、お薦めはし辛いところですが、個人的には楽しめました。

ぼっち経験者の誰もが共感を覚え、友達の有難さを身に染みるほど実感させられる話

テーマ: 読書感想文

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  ぼっちーズ  入間人間  宇木敦哉  評価B 

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僕の小規模な奇跡 

僕の小規模な奇跡僕の小規模な奇跡
(2009/10)
入間 人間

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読書期間:2009/10/18~2009/10/26

【評価……B+
発想 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 なし
構成 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
青春 ★★★★★★★★☆☆
 … 8

『あなたのこと全く好きではないけど、付き合ってもいいわ。その代わりに、わたしをちゃんと守ってね。理想として、あなたが死んでもいいから』
もしも人生が単なる、運命の気まぐれというドミノ倒しの一枚だとしても。
僕は、彼女の為に生きる。
僕が彼女の為に生きたという結果が、いつの日か、遠い遠い全く別の物語に生まれ変わりますように。
これは、そんな青春物語だ。

【感想】


入間人間さん初のハードカバーとなる作品。
元は電撃文庫MAGAZINEで掲載された短編を長編にしたもの。
ちなみに、自分はその短編を読んでいないので、本になって初めて読みました。

あー、なるほど。
ハードカバーになっても、入間さんの魅力は失われていませんね。
たとえ著者名を伏せられて読んだとしても、すぐに入間さんが書いたんだと分かるだろうなと思うくらい、独特のまどろっこしい癖が文面にありありと出ています。
人によってはイライラする要因にもなりますが、これこそが作者の持ち味といえるので、ファンとしては文章量の多いハードカバーで堪能できるのは幸せです。
パロディネタなどが控えめな分、逆にラノベよりも読みやすかったりもしますしね。

で、内容はというと……うーん、みーまーシリーズ以上に感想の書きづらい作品ですね。
物語の明確なラインが把握しづらく、どこに焦点を定めて読めばいいのか悩んでしまうところがあります。
ある兄妹のそれぞれの青春物語がメインストーリーなんでしょうが、それ自体に魅力があるかといわれると、ちょっと微妙なところ。
出来が悪いわけじゃないのですが、長々と引っ張るようなものでもないかなと思ってしまいました。
ずっとひた隠しにされていたオチだけが気になるだけで、中身は薄かったように感じます。

兄と妹の二人の視点から展開される話は、群像劇スタイルとしては終盤まで交わりがかなり少なめ。
別々の物語を交互に読んでいるといっても差し支えないくらいです。
ドタバタコメディ調でいえば、みーまー8巻の方に軍配が上がりますね。
ほとんど予想通りでしたが、ハンサム丸の正体だけは気が付きませんでした。

ちなみに、みーまー8巻と今作は多少のリンクがあります。
とはいっても、どちら側からしても、読んでおく必要性はないので、気にせず手に取ってもらって大丈夫です。

青春の雰囲気や、細かな心の移り行きなど、過程の描写を楽しむタイプの作品ですかね。

登場人物の年齢層を大学生に焦点を定めた入間節炸裂の一品

テーマ: 読書感想文

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  僕の小規模な奇跡  入間人間  評価B+ 

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告白 

告白告白
(2008/08/05)
湊 かなえ

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読書期間:2009/5/26~2009/5/28

【評価……B+
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 なし
オススメ度 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
構成 ★★★★★★★★☆☆
 … 8

我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。

【感想】

2009年本屋大賞第1位に輝いた話題作。
湊かなえ氏のデビュー作でもあります。

◆ 内容 ◆

全6章からなる構成で、登場人物が「告白」する形式で話が進行されます。
語り部を繋いでいくことで見えてくる物語の全体像の前に、人間社会の難解さを感じずにはいられません。
人間というのは、誰もが主人公であり、主観的に物事を判断するものなんだなと、当たり前のことを認識させられました。

基本的に、人間の負の面が厭らしく描かれているため、雰囲気は最初から最後まで暗いです。
陰鬱とした話には耐性があるので、このレベルならどうってことないですが、苦手な人には辛いかもしれません。

物語の進め方、折り畳み方には目を見張るものがありますね。
鬱々とした作品に対して、スーっと心の隙間を縫うように入り込んでくる登場人物たちの心情は、素直には共感できないものばかりなのに、理解できてしまうところもあって、驚くほどスラスラと読めてしまいました。
スピーチの構成が巧い人みたいな感覚といえば伝わるでしょうか。
先の気になる話し方で、途中でだれることなく好奇心を引っ張ってくれます。

読了後、気分が悪くなるという声が多いのは仕方がないかなといった内容ですね。
個人的にはアリだと思える、というか、この作品に相応しい締め方だったと感じました。

昨年の本屋大賞受賞作である「ゴールデンスランバー」とは全く異なる色合いをもった本でした。
エンターテイメント性に富んでいた「ゴールデンスランバー」に対して、テーマと人間の内面重視で描いた「告白」とでは単純な比較は難しいのですが、「告白」は一般受けはしにくい作品でしょうね。
それだけに、本屋大賞に選ばれているのが驚きとも言えます。
デビュー作であるという点も評価に繋がったのかもしれませんね。

◆ 感想 ◆

これは……考えさせられる本だなぁ。

面白いという感想も間違いではないんだろうけども、純粋な気持ちでは言えない引っかかりを覚えます。
テーマは重く、それと同時に苦味があり、単一の感情では語れない内容となっています。

勝手に絶対的なものとして作り上げられた世論というものの危うさが浮き出ていますね。
人が人を裁く基準に正解を求めようとする現代社会の倫理観に対して、問題提起しています。
重要なのは、正しい事と決めつけるのではなく、考えることなんでしょうね、きっと。

小説自体の全体的なレベルとしては、標準よりは上なんじゃないでしょうか。
構成、伏線なども光りますが、何より凄いと思ったのは物語へ引き込む強さ。
登場人物の独白が、徐々に積み重なっていき、息苦しさを募らされます。
鬱屈とした空気を取り払いたいのに、さらに読み進めたくなるほどの怖い魅力がありました。

◆ 総評 ◆

良かったと思います。

それにしても、登場人物の言動や行動が不愉快だから、または作者の偏見で書かれた内容に腹が立つから、この本は嫌いだという意見が散見されるのは少々残念ではありますね。
そんな単純な話ではないと思うんですがねー。
まぁ、確かに分かりやすい面白さはないですし、娯楽として愉しむ本ではないので、わざわざ小説を読んで気分を悪くしたくない方には向かないでしょう。

この本を糧とするには、表面上の物語だけではなく、根底にある大きなうねりを思考する必要性があります。
世の中の不条理さ、異なる倫理観を写し出した素晴らしい作品だったと思います。

欠点はというと、全体の雰囲気重視のために、リアリティに欠ける場面があったところかな。
感情面については、かなり良く出来ている分、登場人物の行動に多少の違和感がありました。
しかし、それによって生まれたプラス要素も大きいので、絶対に悪いというわけでもないですね。

人の悪意に慣れているかどうかによって判断が大きく分かれることになるのかな。
大したことないという人もいれば、ギブアップする人だっているでしょう。
誰かに薦めたくなる本ではないけれど、感想は聞いてみたい本ではありますね。

立ち位置によって同じ事象でも善悪の所在が変わるところがミソ

テーマ: 読書感想文

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  告白  湊かなえ  評価B+ 

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ゴールデンスランバー 

ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
(2007/11/29)
伊坂 幸太郎

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【評価……A-
舞台 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★★
 … 9
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 なし
オススメ度 ★★★★★★★★
 … 9
構成 ★★★★★★★★
 … 9
エンターテイメント ★★★★★★★★☆☆
 … 8

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折りしも現れた警官は、青柳に向って拳銃を構えた――。

【感想】

伊坂幸太郎氏のミステリー&サスペンス。
2008年本屋大賞受賞作。 ⇒ 【外部リンク】
9月下旬から10月上旬にかけて読んでいたので、読み終わってから既に2ヶ月経っています。
いつものように感想は読了後すぐに書いているので、以下はその時に感じたことをそのまま書いています。

◆ きっかけ ◆

ライトノベルばかり読んでいる僕が、意識的に読みたくて買ったハードカバーはこれが初めてになります。
今まで一般小説といわれるものを読むことは少なく、機会があってもそれは読書感想文や論文を書くためといったように読む必要性に駆られたものであり、事務的な作業みたいなものでした。
中には面白かったと思えるものもありましたが、だからといって積極的に本を買いたいと思うことはありませんでした。

そんな自分が今回この本を手に取ったのは、とある書評を見たのがきっかけです。
毎日ラノベ関連の感想サイトをいくつかチェックしているんですが、一般小説の感想を合わせて書いている人は珍しくありません。
その中に自分の感性と近いレビューをしている人がいて、その方が絶賛していたので気になりました。

この1年でライトノベルをそれなりに読むようになって、ようやく本を読むのが習慣となってきたところなので、ハードカバーでも同じように読めるのか挑戦したかった気持ちもありますね。
心情的なタイミングがちょうど良かったわけです。


◆ 感想 ◆

うん、面白かった!
世間一般に評価されている小説とはこういうものだというのを、まざまざと見せられた気がします。
500ページの大ボリュームで贈る壮大な物語の前に、ただただ感嘆させられました。

この本のイイところは沢山ありますが、まず何よりも構成が光りますね。
第一部「事件のはじまり」、第二部「事件の視聴者」、第三部「事件から二十年後」、第四部「事件」、第五部「事件から三ヶ月後」と事件の前後を埋めてから本筋に切り込む構成となっています。
感覚としては、3000ピースぐらいの大きなジクソーパズルを外堀から作っていく過程と似ています。
この枠を越えることはありませんよ~と提示されるのは、どんでん返しがなくなってしまうので驚きが減ってしまうところなんですが、この作品に限っては中のピースを1つ1つ埋めていくと完成図が想像以上に見事でした。

第一部から第三部までの膨大な伏線の数々が凄い。
正直なところ、第三部までの話は抽象的すぎて、あまり面白くありません。
しかし、全体のページ数の4/5以上もある第四部「事件」が始まると、それまでに張りまくった伏線が輝き出すんですよ。
なにぶん分厚い本なので、伏線消化するときも咄嗟にどの辺りで出た話か思い出せないんですが、「ああーっ、あったなぁ」と思わず唸ってしまうことが頻繁にありました。
第四部も過去話と交錯しながら現在の話が進展していて、そのどれもが綺麗にまとまっています。


◆ 物語 ◆

舞台は首相公選制度がある現代の日本。
そこで描かれるのは、首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃亡劇です。

この設定だけでも読んでみたいと思う人はいるんじゃないかな。
巨大な陰謀の前に、平凡な人間が一体何ができるのか。
非常に興味をそそられました。

テーマが明確なので、作者の言いたいこともはっきりと伝わってきて分かりやすいですね。
内容は結構重く、読了後もズッシリとのしかかってきます。
現実でも事あるたびに考えさせられることですが、国家やマスコミや世論といった巨大なものを相手にするとき、一般人はどう立ち向かっていけばいいんでしょうね。
「選挙に行こう」というフレーズは聞き飽きるほど聞いているけれど、自分一人が行ったところで何も変わらないという意見に対して絶対的に否定できる材料はなんて存在しません。
そのうえ、本当に自分の意思が清き一票として投じられているのかどうか疑問を抱かずにはいられないのが世の中の現状ですからねぇ。

人によって感じ方は違うでしょうが、個人的にはハッピーエンドではないと思っています。
モヤモヤしたものが残るので、読了感がいいというわけでもありません。
結局分からず仕舞いなことも多いです。

現代を舞台にしている割には、リアリティが薄く突飛な展開も見られます。
この辺り、映画化を意識しているかのような感じもありますね。
そのため、細かいところを言えばツッコミどころも少なくありません。

しかし、それでも読書中は様々な感情を動かされ、しっかりと胸に刻みつけられました。
濃厚な物語は完成度が高く、読了後は充実感に浸れます。


◆ 人物 ◆

登場人物がかなり多く、ただの脇役だと思っていた人物ものちのちキーパーソンになったりするので油断なりません。
何となくどの人物も似たような雰囲気を身にまとっていて、1冊読んだだけですが、これが作者の色なのかなと思いました。

主人公の青柳雅春は優しい心を持った青年で好感が持てます。
彼をよく知る人物は、首相暗殺なんてことを彼がするわけがないと信じていて、逃走の身でも関わらず、青柳は多くの人から「信頼」されているのが素敵です。
青柳の大学サークル仲間を中心に繋がっていく人間関係を見ていると、いかに人付き合いが大切なものなのかと教えてくれているかのようでした。

・森田森吾について
青柳の大学時代の友人であり、物語の重要人物の一人なんですが、どうしてもちょっと語りたいことがあるので伏せて書きます。

ずっと僕は森田が黒幕だと思って読んでいました。
なので、青柳を逃がした後、本当にあのまま車の中で死んでしまったとは思えなかったんですよねぇ。

理由はいくつかあるんですよ。
まず大前提に、青柳を嵌めた組織はかなりの巨大なもので、いくらでも後処理が可能だったということ。
これを踏まえると、不可解な点がいくつか浮かび上がります。

車に爆弾が搭載されていて、かつダッシュボードに銃が隠されていた点。
森田に銃を使ってもかまわないと指示していることから、組織は青柳の生死にこだわりがないのは明白です。
車から出た直後、警官が簡単に発砲していることからも同様のことが窺えます。
それならば、何故遠隔操作で車を爆破させなかったのか。
森田が裏切る可能性があることなんて十分考えられるのに、盗聴器の設置した形跡さえなかったのは何故か。

ここまで大がかりな計画なのに、いくらなんでも肝心な部分で詰めが甘過ぎませんかね。
何かしらの意図があって青柳にはしばらく逃亡劇を演じてもらう必要性があった、と予想していたんですけどねぇ。
上記の不可解な点の理由が後半明かされることを期待していたので、肩透かしを食らった感はあります。
結局、この点だけは未だに腑に落ちないですね。



◆ 総評 ◆

ハードカバーを読むのには気力が必要ですね。
後半からページをめくるスピードが上がり、読むのを止められなくなってしまう面白さはあったけど、手軽に読めるものではないので、普段から本を読んでいる人でないとお勧めしにくい。
逆に、読書好きの方で、まだ読んでいないという方にはお勧めできますね。
読み応え抜群なので、重厚な作品を探している人は、是非お手に取ってください。
ライトノベルしか読まないって人も、たまには一般小説はいかがでしょうか?

僕も、これはいつかもう一度読んでみたいなぁ。
一週目では気付かなかった伏線がまだまだ残ってそうなんですよね。

伊坂幸太郎氏の他の作品も読みたくなりました。
読書ペースが遅くてラノベだけでも次々発売される新作に手が出せないというのに、どうしようかなw

テーマ: 読書感想文

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  ゴールデンスランバー  伊坂幸太郎  評価A- 

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