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明日へと続く記憶

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、ライトノベルの感想を書いたり、絵を描いたりしています。

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涼宮ハルヒの直観 



【評価……B
発想 ★★★★★★★☆☆☆ … 7
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
ラブコメ
ミステリー
青春



 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7




初詣で市内の寺と神社を全制覇するだとか、ありもしない北高の七不思議だとか、涼宮ハルヒの突然の思いつきは2年に進級しても健在だが、日々麻の苗木を飛び越える忍者の如き成長を見せる俺がただ振り回されるばかりだと思うなよ。
だがそんな俺の小手先なぞまるでお構い無しに、鶴屋さんから突如謎のメールが送られてきた。
ハイソな世界の旅の思い出話から、俺たちは一体何を読み解けばいいんだ?
天下無双の大人気シリーズ第12巻!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第12弾。
帯にある「おかえり!ハルヒ!ー王道にして最前線ー」という言葉が9年半振りの帰還を祝福しています。

まさか今になって本作の続きが読めるとは思っていませんでした。
当時夢中になっていた人達はご存じの通り、一度この作品は長期間の中断をしています。
前後編の前半として発表された「分裂」から延期が長引き、4年の空白期間を挟んで「驚愕」が発売された時は祭りとなったものです。
ただそこである程度区切りが付けられ、ファンも満足してしまった人が多かったように見受けられました。
まぁ、続きを諦めていたというのが正しいところかもしれませんが。

そんな中で発売された最新刊。
率直な感想としては、面白さより先に楽しいという気持ちで心が満たされました。

短編集というより、長さの異なる3つの話が収録されています。
うち2本は過去に特典等で掲載されたもので、残り1本が書き下ろし。
いずれも初読みとなりました。

【あてずっぽナンバーズ】

SOS団で初詣に繰り出すお話。
2013年に刊行された「いとうのいぢ画集 ハルヒ百花」に収録されていました。

懐かしい面々が帰ってきたと実感できるエピソード。
特別なことは起きなくてもキャラの掛け合いだけでほっこりできる安心感があります。
ハルヒを先頭にして、みくるを引き連れ、長門が無言で付き添い、古泉がすました顔で笑い、キョンがやれやれと呟く。
全国の学校でSOS団らしきサークルやら部活が増大するのも納得できる、ある種完成された青春がそこにありました。
「憂鬱」や「溜息」の頃の不安定さはなく、ハルヒが皆のことを大切にしていることが伝わる時期の話なので実に微笑ましいですね。

【七不思議オーバータイム】

SOS団員達による七不思議創作物語。
スニーカー文庫30周年記念で1号限りの復活となった「ザ・スニーカーLEGEND」で掲載されていた話です。

言われてみれば、不思議を追い求めるハルヒにしては七不思議を連想するのが遅かったですね。
現実的には七不思議なんて、噂ですら漫画や小説の中にしか存在しないものですけど。

古泉の真骨頂というべき会話劇ですね。
セリフ量に関して、魅力的なヒロイン3人組よりも古泉の方が圧倒的に多かったことを思い出しました。
いつも通りハルヒを平穏かつ適度に刺激のある生活を送ってもらうための仕込みをキョンも手助けするわけですけど、あまり緊迫感もないので平坦な印象。
キャラよりも七不思議の内容に焦点が当てているので惜しい感じがしました。

【鶴屋さんの挑戦】

今回唯一の書き下ろし長編。
表題通り、SOS団名誉顧問の鶴屋さんがSOS団に対してクイズ形式で問う推理モノです。
280ページ以上のボリュームとなっており、単純なページ数だけでいえば「消失」を上回ります。

「直観」のメインディッシュとなるわけですが、あくまで長くても番外編ですね。
ミステリー小説における哲学を語り合う序盤は作者の趣味全開って感じ。
元々意図的に嵐の孤島や吹雪の山荘などに頭から突っ込んでいくスタイルで、舞台だけではなくミステリー要素は随所に挿入されるシリーズでした。
しかし、ここまで引用を多用してコテコテの推理小説に仕立てたのは、いつかやりたいと思っていたことなんでしょうね。

真剣に挑んだわけではないものの、仕掛けられた謎や伏線は半分程度しか解けませんでした。
作中にもあるメタ的な視点により解読できたこともあり、純粋に推理できたものは多くはありません。
良質な推理小説を真面目に考えて解き明かすことも楽しいのですが、どちらかといえば深くは考えず騙されたりミスリードに驚かされる方が楽しめると思ったのでこれで良かったと思います。

それにしても「分裂」以降、同作者の「学校を出よう!」みたいにSF理論やミステリー要素が増えましたね。
谷川流という作者が好きな人にとっては読み応えのあるエピソードだったのではないでしょうか。

一方で「涼宮ハルヒ」シリーズがここまで人気を博した理由は別なんですよね。
ハルヒを始めとしたキャラの活き活きとした魅力、キョンの独特なモノローグ、のめり込む物語の構成力など。
良くも悪くも大衆的な要素で、作者の執筆欲とは相反するものだったのかなと予想できます。
求めていたものによって評価が二分されるのは致し方がない話だったと思います。

要するに。
「涼宮ハルヒ」シリーズでなければ成り立たない話ではなかった。
「涼宮ハルヒ」シリーズでなければ注目される話ではなかった。
でも「涼宮ハルヒ」シリーズとして読めて楽しかった。

個人的な落としどころとしては、こんなところですね。

とにかくまた読むことができて良かったです。
相変わらずライトノベルの名に相応しい軽やかな文体ですらすらと読めますね。
鶴屋さんのくだけた喋りが引っ掛かることなく音読できるのが何気に凄い。
いとうのいぢさんの絵柄は線が濃くなり、色塗りがアニメ的になっていて、最も年月の経過を感じさせる要素でした。

続きは書いてくれるのかなぁ。
一応今後の伏線になりそうな匂いだけは漂わせていましたし、あとがきの最後の言葉からして意欲はないわけではなさそう。
読了後に思わず「消失」のアニメ映画を見てハルヒ熱が再燃してしまい、原作を読み直し中だったりするので、早くも新刊を渇望しています。


9年半振りに帰ってきたSOS団の日常が同窓会的な懐かしさを感じさせます

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B 

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サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA 

サクラダリセット7  BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)
(2012/03/31)
河野 裕

商品詳細を見る
読書期間:2012/4/27~2012/4/30

【評価……A
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★★
 … 9
恋愛
透明感
切なさ
構成
完成度

 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★
 … 9


 「私が将来の夢を失くしたのは、貴方に出会ったからよ」
 能力を失くした相麻菫。
 「私は貴方を、覚えていません」
 能力を失くした春埼美空。
 改変された咲良田で、ケイはひとり、ふたつの記憶――街に能力が存在する本物の記憶と、能力が消滅した偽物の記憶――に直面していた。
 自らの過去に区切りをつけるため、ケイは初めて咲良田を出て――。
 複雑でシンプルな、大人のような少年がたったひとつを祈り続ける物語。堂々完結!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


物理法則に従わない能力を所持する者が住む街、咲良田。
人が能力を使用することの意義を問うシリーズ最終巻です。

とても素晴らしい物語でした。
直感で読み始めた作品でしたが、出会えたことに感謝したいです。

全てを見通した上での構成が、尋常ではない完成度にまで引き上げています。
作者自身公言している通り、これ以上の過不足はないでしょうね。
作品内の雰囲気だけに留まらず、シリーズ構成までもが美しく整っているなんて、相当緻密な設計をしていない限り不可能なことです。
予定通りの巻数で終われるだけの売れ行きがあって、本当に良かったと心から思いますね。

1~6巻までに登場してきた人物、能力のいずれもが関わっていることに衝撃を覚えます。
7巻を最初に書きあげて、その後に辻褄を合せるよう物語を組み立てたと言われても疑わないですよ。
適材適所が見事過ぎて、ある意味でご都合主義に見えてしまうほどです。

しかし、それは使う立場がいてこそ初めて輝くもの。
未来視能力を持った相麻ではなく、人よりも少し記憶力の良いケイが導いたことに驚かされます。

理想論を語る主人公なら数え切れないくらい存在します。
それらの多くは、言葉だけが立派で、蛮勇といってもいいものです。
または己の力を過信し、結果論で語る暴力的な思考によります。

しかし、ケイは違います。
彼は自分がどれだけ聡くて、どれだけのことが可能なのか正しく判断できる人間です。
春埼や相麻が絶対的に信じるのは、彼ほど透き通った心を持った人間がいるとは思えないからでしょう。

誰よりも傲慢なのに、目指すべき境地が夢のように心地良い。
彼の夢に乗っかり、理想に浸っていたい。
中野智樹、村瀬陽香、岡絵里、坂上央介、宇川沙々音。
ケイの周りにいる人間は、一括りには出来ない想いを抱いているけれど、みんな彼に惹かれている。
友情であり、嫉妬であり、憧れでもあるそれを人はカリスマと呼ぶのでしょう。

当たり前のことを当たり前にできるのが如何に難しいことなのか。
完璧主義者でありながら切り捨てる勇気も併せ持つケイの凄みが、坂上の台詞に集約されていました。

無垢というより無味な人格だなという第一印象が嘘なほどに春埼は変わりましたね。
作中でも関わり合いの薄い立場から見ると、春埼は意志のない人間に見えるんでしょう。
でも、ここまで物語を追ってきた読者からすると、ぬりえの前と後くらい別物に感じられます。

ケイを通じることで、相麻菫が如何に非情な立場にあったのかを痛感します。
前回で散々泣いた相麻が、なおも苦境に立たされ続けないといけないことに嘆くことしかできません。
それでも、少しでもケイや春埼が彼女の肩代わりができれば、救いとなるのかなと勝手ながらに思いました。

管理局との対立は、そのままケイと浦地による手札の切り合いと化していましたね。
お互いの手の内を読み合う様は、形勢が頻繁に入れ替わり、読み応え抜群でした。
頭脳的な能力バトルは大好きなので、知略戦には心躍りましたね。
雰囲気を大きく壊すようなこともなく、あくまで物語を構成する一つの要素に留めてくれていたのも良かったです。

散りばめられた伏線は、概ね回収されています。
ケイの名前がカタカナ表記だった理由など明かされないと思っていたので、あのくだりは嬉しかった。

潔癖すぎるぐらい綺麗なお話でした。
余分な成分を一切取り除いた後に残された二つの側面は、どちらも正しく、恐ろしいほどに純真で。
人々の感情を大切な宝物のように扱う彼や彼女たちは、とても素敵な人でした。

口絵のイラストは、最後まで高クオリティ。
椎名優さんの優しくも洗練されたタッチによるイラストが、素晴らしい相乗効果を生み出していました。
また次のシリーズもこのコンビによる作品を読んでみたいですね。

矛盾の中に潜む真実を求めて、少年が我儘に己の世界を求める物語

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価A 

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サクラダリセット6 BOY, GIRL and ―― 

サクラダリセット6  BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)サクラダリセット6 BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)
(2011/11/30)
河野 裕

商品詳細を見る
読書期間:2012/1/24~2012/1/28
月間マイベスト作品

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★★
 … 9
恋愛
透明感
切なさ
構成


 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8



 「これで、最後だから。たぶん、あと数日で、すべて終わる」
 復活後、姿を見せなかった相麻菫。しばらくぶりの彼女からケイへの連絡は、奇妙なものだった。
 一つ目は、春埼と一緒に交差点でゴミ拾いをしろというもの。
 一方、管理局対策室室長・浦地は“咲良田のリセット”――全能力の消滅を目論んでいた。彼は未来視能力を持つ二代目魔女・相麻に接触し……。
 初代魔女が名前を失う前、咲良田の「始まりの一年」が明らかに!最終章突入!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


壮大な舞台で綴られるのは、少年と少女の恋物語。
能力の是非を問うクライマックス突入のシリーズ第6巻です。

何という切なく、そして綺麗なお話。
この作者が紡ぎ出すキャラ、言葉使い、雰囲気。
いずれも美しいという言葉がピタリと似合います。
透き通った文章が、静かに心の奥深いところへと沈む込んでいき、離しません。
期待通り面白かったです。

遂に明かされる咲良田の始まりと、相麻菫の意図。
秘められた過去に気が付いた時、一言では言い表せられない想いが胸に込み上げてきます。
数々の伏線がたった一つのことへと収束しく様は圧巻で、様々な関門を貫いて届く想いを美しいと言わずとして何と表現すればいいのか分かりません。

相麻菫の悲痛なる決意を思うと、吐息が重くなります。
傍から見れば、たったそれだけのことであっても、彼女は文字通り身を投げてまで守りたかったのか。
彼女が抱える愛情の深さに涙腺が刺激されっぱなしです。
覚悟を決めた人間の格好良さに男も女も関係ありませんね。

ケイ、菫、そしてもう一人の主役となる浦地正宗。
彼らが幸せを求め、それぞれの世界を望み、我を通す行為に嫌悪感を抱かないのが凄い。
この作品の素晴らしいところは、皆が純粋に心を追い求めるところにあると思いますね。

脇を固める役柄も欠かせません。
全てはこのために配置していたのかと言わんばかりに、集うピース。
余すところなく全員が物語に関わり合い、ケイに影響を与えていく構成には目を瞠ります。
最初から完成形がある程度出来ていないと作れませんよ、これは。

小説に華を添える椎名優さんのイラストは、相変わらずの画力で文句のつけようがありません。
春埼の作り笑顔から、菫の慟哭まで、いずれも脳内に直接焼きついたかのように覚えています。
冒頭で登場人物紹介を載せてくれたことも有難い配慮でした。

能力は、人を幸せにするか否か。
最終巻を読むのが今から楽しみでなりません。

少女の苦しみと慈しみが詰まった未来が、優し過ぎて切なくなります

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価A- 

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円環少女 1 バベル再臨 

円環少女 (角川スニーカー文庫)円環少女 (角川スニーカー文庫)
(2005/08/31)
長谷 敏司

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読書期間:2012/1/1~2012/1/18

【評価……C+
発想 ★★★★★★★☆☆☆ … 7
設定 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
文章 ★★★☆☆☆☆☆☆☆
 … 3
挿絵 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
SF
構成
ロリ



 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
 ★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7




 幾千もの魔法世界から<地獄>と呼ばれ最も忌み嫌われた場所――地球。なぜんら、本来自然なはずの魔法現象を消滅させてしまう恐るべき力を、人類だけが持っているからだった。
 元の世界で犯した罪のため<地獄>に堕とされた一人の少女魔導師・鴉木メイゼル。彼女の受けた刑罰は、<地獄>で敵対魔導師100人を倒すこと――。
 <円環大系>の使い手が、誰も成し得たことの無い過酷な運命に立ち向かう!灼熱のウィザーズバトル開幕!!

【感想】


SFとファンタジーが融合された現代モノの魔法バトル小説、シリーズ第1弾。
コアな人気を誇る作品で、シリーズ完結を機に読み始めてみました。

文章が難儀ってレベルじゃねえー!
ライトノベルに限らず、一般小説でもここまで苦労した覚えはありませんよ。
感覚としては、もはや古文です。

最初は、自分の読解力がないだけかなと思っていました。
単語の選別は、硬質な美がありましたしね。
しかし、それだけでは片づけられないぐらい明らかにおかしな文法が散見されます。
SVO型の文章の方が少ないくらいで、主語と述語が繋がっていません。
おかげで、どれだけ物語が良くても魅力を半減してしまい、非常に残念なことになっています。

そこに加えて設定も難解かつ作品内の専門用語も多用しており、親切心なぞ欠片も見当たりません。
説明が説明になっておらず、幾度となく文章を読み直しさせられました。
せめて文章が一般的なものであれば、理解も深まったんですけどねぇ。

一部の者だけが魔法と数多の異世界があることを知っている世界観は、別段珍しくはありません。
ただ、その魔法大系が独特で、センスを感じます。
特に面白いのが、地球に住む人間には観測するだけで魔法効果を消滅させる力があり、それを嫌う魔導師たちが地球を<地獄>と呼ぶ設定。
一般人が魔法の存在に気付いていないことと、魔導師たちが公に力を発揮できない理由をまとめて論理づける視点が、実に巧妙で納得させられました。

キャラの登場数がやたらと多いのも、混乱を誘う要因の一つですね。
設定も物語にも言えることなんですが、詰め込み過ぎてしまう癖でもあるんでしょうか。
巻数を重ねた後に来るべきクライマックスを、初っ端から持ってきた感じがしました。
おかげで、ストーリーは面白味もあったんですけど、設定ありきで構成が雑な部分もあったり。
おそらく、ある程度ならした後は、敷き詰めた伏線が誘爆するように広がっていくことになると思われるので、シリーズが進めば進むほど楽しめる類の作品なんでしょう。
それと引き替えに、敷居の高さが相当なものとなってしまいましたね。

感情移入するほど没頭は出来なかったのですが、それでもヒロインの鴉木メイゼルだけはキャラが立っていたと思います。
見た目小学生の女の子には重すぎる業を背負っているにも関わらず、辛そうな素振りを見せません。
主人公の武原仁を「せんせ」と呼び慕う、ちょっぴり背伸びしたところが可愛かったです。
まぁ、ロリには興味がないので、個人的にはロマンスは必要ないですけどね。

素材の良さは間違いないと思います。
ただし、調理方法が特殊で、人を選ぶどころか、人が試されるような作品です。
とにかく次から次へと生み出される設定の波にドップリと漬かるか、溺れてしまうか。
「このライトノベルがすごい!2012」で少数の支持者に投票された結果、総合4位に輝いた作品ですが、これはとてもじゃないですけど、万人にはお薦め出来ません。
緻密な作中設定が大好きだという人は、ハマれる可能性があるので、挑戦してもいいかも。
整合性があるかどうかは保証しかねますがね。

330Pの本を読み終わるのに半月も要するとは思わなかったなぁ。
物語的には気になるので、2巻は読むつもりですが、文章が改善されていないと厳しいですねぇ。

魔法や舞台の設定が激流の如く書き連ねており、難解な文体が独自の作風を生み出しています

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  円環少女  長谷敏司  深遊  評価C+ 

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サクラダリセット5 ONE HAND EDEN 

サクラダリセット5  ONE HAND EDEN (角川スニーカー文庫)サクラダリセット5 ONE HAND EDEN (角川スニーカー文庫)
(2011/04/28)
河野 裕

商品詳細を見る
読書期間:6/23~6/27

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
構成
安定感



 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 「私を普通の女の子にすることが、貴方にできる?」
 復活した相麻菫。ケイは彼女に、咲良田の外に――能力が存在しない世界に移住することを提案する。だがそれが上手くいくのか、彼にも分からなかった。
 確証を得るため、ケイは管理局の仕事を引き受け、春埼、野ノ尾とともに、九年間眠り続ける女性の「夢の世界」へ入る。そこでケイは、ミチルという少女と青い鳥に出会い――!
 “咲良田”とは?能力とは?物語の核心に迫る第5弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


特殊能力を有する若者たちが、真摯に幸せを追求するハートフルストーリー第5弾。
透明感のある雰囲気は、今巻も継続しています。

久々の本編ですね。
3巻は9割が過去編、4巻は短編集だったこともあり、ようやく物語が再始動しました。
ただし、今回はサブストーリーに本筋の種蒔きを散らしたかの内容ですがね。

中身は、安定した作りで楽しめました。
妙に哲学的な会話が面白く、気が付いたら読み終わっています。
丁寧語の会話が機械的なやり取りだからこそ、言葉に含まれる人肌に触れたかのような温もりが伝わってきますね。

ほのかに温まる優しさと、残酷な消失が表裏一体となっている話でした。
泣きたくなるくらい切ないけれど、救いのあるラストのおかげで、読了感は素晴らしく晴れやかです。
若干インパクトが不足気味ですけれど、及第点はクリアしていると思います。

一人でも多くの笑顔を実現しようと奔走するケイの理念は、凄く心地良い。
現実を脱線しない程度に理想を追い求める彼の努力は、一種の恐ろしさを覚えるほどに純度が高く眩しく見えます。
個を消しているようで、誰よりも我が強いところが好きですね。

登場人物たちが曇ることなくクッキリと描かれる裏で、細かな設定や伏線が配慮されています。
能力の組み合わせ方が絶妙で無駄がないのは、もはや言うまでもなし。
積み重ねていく土台の安定感は見事です。

この作品、刊行順に読んでいても時間軸が激しく前後するので、中間部分が不透明ですね。
意図的に隠された事実が含まれているんでしょうけど、少々把握し辛いのが難点かな。
相麻菫の計画や、管理局内部の思惑が少しずつ見えてきて、シリーズの根幹部分が判明しつつありますが、終着点はまだまだ見えないですね。

きっと作者の頭の中では、完成図が出来あがっているんでしょう。
空いている箇所にピースを一つずつ埋めていくパズルを彷彿とさせる構成で、隙がありません。
刊行が空いてしまうと忘れてしまいそうなので、一気に読みたいですね。

大切な少女のために手段を選ばない主人公が格好良い

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B 

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涼宮ハルヒの驚愕(後) 

涼宮ハルヒの驚愕(後<br> (角川スニーカー文庫 168-11)涼宮ハルヒの驚愕(後)
(角川スニーカー文庫 168-11)

(2011/06/15)
谷川 流

商品詳細を見る
読書期間:2011/5/26

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
構成
衝撃度

 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8


 団長閣下による難関極まりないSOS団入団試験を突破する一年生がいるとは思わなかったが、俺に押しつけられた「雑用係」という不本意な肩書きを譲渡できる人員を得た幸運を噛みしめるのに、何のはばかりもないはずだ。なのに、ハルヒ同席のあのぎこちない再会以来、佐々木たちが顔を見せていないことが妙に引っかかるのはどうしてかね。類い稀なる経験に裏打ちされた我が第六感は、何を伝えたいんだ?
 圧巻のシリーズ第11巻!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第11弾。
「分裂」「驚愕(前)」から続く分岐ルートの収束点であり、解決編となります。

amazonの画像は、通常版の後巻となっています。
涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版」のセット購入希望の方はご注意ください。

素直に面白かったです。
ここまで読み終えて、ようやくすっきりとした心地になりましたね。
ずっと燻っていたものが、物語を紐解くごとに解かれて、晴れやかな気持ちにさせてくれました。

前巻を読んでいたときにも感じたことですが、後半に進めば進むほど筆の走りが快調になっていき、滑らかな語り口調が面白くなっていますね。
筆者がどの時期にスランプに陥ったのか、推察しても解答は得られませんが、おそらく序盤だったんでしょう。
明らかに文章の勢いが違います。

これまた想像でしかありませんけど、初期の構想は一旦リセットして、再度練り直したのではないでしょうか。
仕切り直しといってもいいかもしれません。
「憂鬱」を想起させるようなハルヒとキョンの関係性が、リスタートを印象付けています。

SOS団結成からちょうど1年経った話として、相応しいストーリーでした。
ハルヒの何でもありな力に振り回される団員たちの図に変化はなくとも、団結力は段違いです。
みんながみんな成長し、パワーアップしています。

その最たる例として、外的要因として投入された佐々木への応対でしょう。
ハルヒとキョンの二人の仲に、一陣の風が吹いたわけですが、これが思いのほか揺るがない。
確かに「分裂」初期では、神人を発生させてしまうぐらいハルヒの内心は穏やかでなかったので、もっと直接的にラブコメチックなやり取りがあるのかと思っていました。
しかし、実際はキョンを中心とした、ハルヒと佐々木の両側面を見せる手法としての活用に留まっています。
まぁ、あくまで主人公はキョンだということをアピールする狙いもあったのでしょうが、もっと波乱が待っていると思っていたんですけどね。

分裂したルートと二択を迫られるキョンが、交わるようにして繋がる展開は、期待通り面白かった。
この部分が読みたくて4年間待っていたようなもんですしね。
某キャラが今までのイメージから大きく崩れて、思わず吹き出してしまいましたよw

「分裂」の感想でも書きましたが、著者の「学校を出よう!」を彷彿とさせるギミックが散りばめられていましたね。
多次元世界論は、興味深くはありましたけど、読み応えは足りなかったかな……?
文章に遊びがあるのは大歓迎です。
でも、余分なくだりや段落が散見され、同じことを繰り返している構成は、もう少し絞り込むべきでした。

佐々木が可哀想になってしまうぐらい、キョンの気持ちが既に強固なものとなっていましたね。
みくるに父性感情に近い好意を抱いたり、長門へ絶大な信頼を寄せたりとしていても、女の子として魅力を感じるのはハルヒってことなんでしょう。
これまでは自覚しないよう努めていた想いが、節々でこぼれ落ちていて、ほんわかとさせられます。
ただし、キョンがSOS団員以外に対して、過剰なまでに排他的なのは気になりました。

佐々木も悪くないどころか、凄く良い子なんですが、勝負の相手や時期がマズかったかな。
一般人でありながら、誰よりも根幹からブレない頼もしさや、他人の言葉の真理に鋭く気付く聡い一面は、人間的にとても魅力的でした。
結局、三角関係にすら持ちこめなかったのは、残念というか気の毒でしたねぇ。
今後の登場も是非期待したいところです。

新しくSOS団の一員として加わった渡橋泰水の素性は、なるほど、これは良いアイデアですね。
将来のSF展開に、一つ新たな要因を投石できる可能性を作ったことになります。
幾つもの可能性を疑っていたのですが、何故か不思議とこのパターンだけは抜け落ちていて、正直予想外でした。
「分裂」から登場しているにも関わらず、後巻に至るまで挿絵がなかったので、やっと容姿が判明しましたわけですが、なかなか可愛かったと思います。
それにしてもハルヒ、佐々木、長門、ヤスミとショートカットの女の子が多いのは作者の趣味なんだろうかw

「憂鬱」がハルヒ、「消失」が長門、「陰謀」がみくるだとすると、順番的には古泉の回だったわけです。
古泉の活躍は、当初から決まっていたのではないか……というより、主役だったのではないでしょうかね。
ハルヒ寄りにシフトしたのは、4年の空白があったからではないかなと。

宇宙人や未来人ばかりクローズアップされますが、古泉は何気に凄いと思うんですよ。
華やかなSOS団の女子メンバーに埋もれることなく、見事なまでにキャラを立たせています。
よくある親友や悪友とはまた違う立ち位置で、キョンと最も会話をしている人物、それが彼ですね。
超能力は限定的条件付きであっても、古泉の思考回路や分析力は、相当な力だと思います。
本当に今回の古泉は、格好良かった。
そして、一気に怪しい存在になりましたw

あとは、やはりハルヒか。
キョンが驚愕することばかりで、おかしいなと訝しんでいましたが、最後に来ましたね。
ハルヒの驚愕する顔は、思わずニヤケてしまいました。
傍若無人なイメージが付きやすいけれど、実は中身は非常に女の子らしいですよね。

キョンは、一応主人公のはずなのに、無力感が漂っているなぁ。
藤原たちに追い詰められて、手も足も言葉さえも出てこないのは、仕方がないとはいえ、本人も自覚している通り少々情けない。
古泉とは正反対で、考えているようで考えが甘い。
男前にはなったなと思いますが。

【いとうのいぢさんのイラストについて】

本人も公言している通り、随分絵柄が変わりました。
塗り方の変化や下まつ毛のせいで、何だかケバいw
例えるならば、淡く野暮ったかった田舎娘が、都会でメイクを覚えた感じ。
好みはあるでしょうが、絵のレベルは上がっており、これはこれで良いと思います。
みくると佐々木が可愛かったです。

しかし、前後巻合わせて、口絵でキョンの顔ドアップを3枚も描いたのはやりすぎ。
佐々木なんて、後巻の表紙以外に、本編ではカラーイラストないというのに。

【Rainy Day】

初回限定版のみについてくる小冊子に収録されている書き下ろし短編。
キョンと佐々木の中学時代を描いた、とある夏のエピソードです。
内容的には、本編を読んでから手をつけることをお薦めします。
ページ数は少なめなので中身は何とも言えませんが、佐々木の絵が最高でした。

【総評】

読んで良かったと思える良作でした。
しかし、4年の時を待つほどのものだったかと問われると、首を傾げてしまいます。
シリーズ最高傑作である「消失」のラインには残念ながら届いていません。
期待をし過ぎると、楽しめなくなるでしょうね。
それでもこの世界観は大好きです。

次は、果たしていつになるのかな。
短編ネタを形にしたいそうですが、今回で先が気になる伏線がいっぱい出来上がりました。
さすがにまた4年後ってことがないことを切に願います。

各々の成長が見られ、SOS団の絆の強さを思い知らされる原点回帰の物語

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価A- 

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涼宮ハルヒの驚愕(前) 

涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き) (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの驚愕 初回限定版(64ページオールカラー特製小冊子付き) (角川スニーカー文庫)
(2011/05/25)
谷川 流

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読書期間:2011/5/25~2011/5/26

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
SF
ラブコメ
世界観
構成
衝撃度

 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8


 SOS団の最終防衛ラインにして、その信頼性の高さは俺の精神安定に欠かさざる存在であるところの長門が伏せっているだと?
 原因はあの宇宙人別バージョン女らしいんだが、そいつが堂々と目の前に現れやがったのには開いた口も塞がらない心持ちだ。どうやら、こいつを始めとしたSOS団もどきな連中は俺に敵認定されたいらしいな。上等だ、俺の怒髪は天どころか、とっくに月軌道を超えちまってるんだぜ?
 待望のシリーズ第10巻!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第10弾。
2007年4月に「分裂」が発売され、同年6月発売予定だった本作。
散々もう出ないのではないかと噂されていましたが、遂にお目見えです。

とりあえず、率直な感想としては、とても面白かったと言えます。

当初一冊だけの予定が、発売が延びた結果、前後巻となりました。
初回限定版は、その前後巻がセットで販売され、「涼宮ハルヒの秘話」という小冊子が付いてきます。
遅れて通常版も発売する予定となっているらしいのですが、どうも相当数刷ったようで、通常版の方が希少になりそうな気配です。
初回で50万部以上を発行しているため、まだ書店に多く並んでおり、わざわざ通常版を買う方は少ないでしょうね。

前巻は、amazonの画像にもあるハルヒが表紙です。
Hのマーク上に「初回限定版」の文字が印字されていて、背表紙にも同じく書いてあります。
裏面は、あらすじのみとなっており、バーコードや値段は一切表記されていません。
おそらく通常版は、この辺りが異なっていて、マニアは両方買うことになるんでしょう。

そもそも「驚愕」の前後巻の前に、「分裂」からの続きとなっており、4年待ったファンの多くは内容をすっかり忘れてしまっていたでしょうね。
自分の場合、この新刊のためにシリーズ再読をしていたので、問題なくすんなり入ることができました。

一応簡単に振り返ると、「分裂」で物語が2つのルートに分裂しました。
入団希望の新入生たちが集ったSOS団の平和な日常が続くαルート。
佐々木を中心とした宇宙人・未来人・超能力者よる介入が激しいSF展開まっしぐらなβルート。
二つの時間軸が交互に展開されるものの、いかなる理論で分裂しているのが分からず、同時に物語が進行しています。

前巻ということもあって、まだまだ問題は解決するに至っておりません。
それどころか、「分裂」以上に物語が分裂しており、二つのルートの差が激しくなっています。

内容はまるで違うのに、どちらもこの作品らしいと感じるのが何とも面白い。
個人的には、新入生のSOS団員適性試験が楽しいαルートの方が好きですね。
βルートは、長門が倒れたことで先が見通せず、興味深くはあるんですが、進みが遅いのが残念。

しかし、これは前後巻に分ける必要性はあったんですかね。
2冊に分ける理由も特にありませんし、そもそもこんなに長々と分裂模様を描く意味も希薄です。
答えだけはぐらかされている気分で、焦れったいのなんの。
「憂鬱」「溜息」と同じく、仕掛けが遅くて、少々テンポが悪く感じました。

とはいえ、つまらなかったわけではありません。
タイトル通り、驚愕の事実が複数発覚して、ドキドキワクワクさせられました。
一番の驚きは、古泉関連かな。
全く予想していなかっただけに、まさかと思いました。
本当なのかどうかイマイチ信じることができませんが、真実とするならば色々と引っくり返りますね。

一連の物語の第4章から第6章までが収録されています。
このうち、第4章は「ザ・スニーカー」で先行掲載されたものですね。

4年間のブランクなのか、第4章は文章にキレがなくて不安な立ち上がりでした。
連続して再読していたからこそ気付いた些事かもしれませんが、キョンのたとえて表現するモノローグが鳴りを潜めていて、面白味が少なく感じましたね。
しかし、それも最初だけで、中盤からは踊るような文章で、ああ「涼宮ハルヒ」が戻ってきたんだなぁという実感しました。

SOS団を大事に想うキョンの気持ちが、文面に強く表れていました。
異能を所持しているわけでもない一高校生でありながら、宇宙人や未来人に立ち向かう様は、無謀とも言えますが、傍観者スタイルだった「消失」以前とは異なり、熱くて格好良かったです。

最近のライトノベルは、どうしてもお約束のえちぃシーンを取り入れる傾向がありますが、この作品に関してはエロ要素は皆無ですね。
コメディもパロに頼り切らず、キョンの変化球な語り口で勝負しています。
それが逆に新鮮で、安心感を与えてくれますね。
チープなエロコメや、パロディ満載のバカコメディも嫌いじゃないですけど、作風を考えるとこれが正しい選択でしょう。

内容が内容だけに、ネタバレなしだと当たり障りのないことしか書けませんね。
キャラに関しても、語りたいことがいっぱいあります。
ハルヒ、キョン、古泉、佐々木、その他新キャラなどなど。
ということで、後巻の感想で少し踏み込んで書きたいと思います。

シリーズ再始動となる待望の続巻は、驚愕の事実が随所に埋め込まれています

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B+ 

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涼宮ハルヒの分裂 

涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの分裂 (角川スニーカー文庫)
(2007/03/31)
谷川 流

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読書期間:2011/5/20~2011/5/24

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
構成
期待感

 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★
 … 9


 桜の花咲く季節を迎え、涼宮ハルヒ率いるSOS団の面々が無事に進級を果たしたのは慶賀に堪えないと言えなくもない。
 だが爽やかなはずのこの時期に、なんで俺はこんな面子に囲まれているんだろうな。顔なじみのひとりはいいとして、以前に遭遇した誘拐少女と敵意丸出しの未来野郎、そして正体不明の謎女。そいつらが突きつけてきた無理難題は、まあ要するに俺をのっぴきならない状況に追い込むものだったのさ。
 大人気シリーズ第9弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ、第9弾。

まず読み始める際に、ページ上部の余白が大きいことに気付くと思います。
違和感バリバリですけど、一応意味はありますので、ご安心ください。
初めて読んだ時は、印刷設定ミスかと疑ったものですw

「消失」までを第一部とするならば、それ以降に語られた伏線を集結させた第二部完結編の序章となるのが、今回の「分裂」の内容ですね。
「雪山症候群」にてSOS団を窮地に追いやった敵対宇宙人、「陰謀」でみくる誘拐を企てた機関とは異なる組織と気に食わない未来人が顔を揃えて登場し、キョンを突飛な展開に巻き込んでいきます。
あくまで前半部分なので、今巻だけでは感想が難しいものの、今後の展開は期待が持てる内容となっていますね。

タイトル通りの「分裂」を起こしているため、構成が非常にややこしいことになっています。
このギミックが面白かどうかと問われると、微妙なところですね。
アリといえばアリなんですけど、解決していないこともあってスッキリしないのが何とも言えません。
まぁ、当時とは違い、解答編である「驚愕」がすぐ読める環境になったので、これから読み始める人にとっては特に問題ないかもしれませんね。

仕掛けからして、「涼宮ハルヒ」というよりも「学校を出よう!」に近い印象を受けました。
著者が表現する時間移動論や並行世界原理などは、感覚的に納得させられる説明が上手いんですよね。
叙述トリックも多用していて、この時点では、気が付いていない要素もありそうです。
SF理論が、なかなか興味深くて、先が非常に気になります。

新キャラが何名か登場していますが、中でも一押しは佐々木でしょうか。
あらすじにもある通り、キョンの顔馴染みである存在で、SOS団の面子にも負けず劣らずユニークです。
登場の仕方には、少々驚かされました。
理知的なイメージというと既に古泉がいますが、この手のキャラは大好きですね。

キャラクターが多く登場している反面、SOS団の面子は若干割を食う立場となってます。
出番が全体的に少なめの中で、ハルヒは要所で輝いていました。
もはや、傍若無人な態度がツンデレにしか見えなくなりましたねw

これにて「涼宮ハルヒ」シリーズの再読が完了です。
シリーズ初の複数巻にまたがる長編で、まさか4年待たされることになるとは思いもしませんでした。
いよいよ「驚愕」の物語を再スタートすることができます。

伏線大放出となる長大な物語の幕開けを予感させます

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B+ 

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涼宮ハルヒの憤慨 

涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)
(2006/04/28)
谷川 流

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読書期間:2011/5/16~2011/5/17

【評価……B+
発想 ★★★★★★★☆☆☆ … 7
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
青春


 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8



 涼宮ハルヒが暇を持て余してたらそれこそ天地が逆になる騒ぎだろうが、むやみに目を輝かせてるのも困った状況ではある。
 それというのも生徒会長なるお方が、生徒会はSOS団の存在自体を認めないなどと言い出しやがったからで、意外な強敵の出現にやおら腕章を付け替えたハルヒ“編集長”の号令一下、俺たちSOS団の面々はなぜか文集の原稿執筆などという苦行の真っ最中なわけだ。
 天上天下唯我独占「涼宮ハルヒ」シリーズ第8弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第8弾。
中編2本収録されており、長編ほどではないにしろ充足感を得られる内容となっています。

どちらもSOS団の日常がベースのエピソードで、非常に楽しかったです。
何でもない日々がこんなにも面白く感じられるのは、キャラが立っているのと文章に中毒性があるからでしょうね。
キョンの一人称による語りは、独特のテンポで病み付きになります。
筆力が高いというよりも、センスを感じる文体で、個人的な好みの差が大きいだろうなと感じますね。

挿絵も豊富で、見応えありました。
ただ、相変わらず本文の描写と合っていない箇所もあるのが、勿体無い。
イラスト指定は、しっかりして欲しいですね。

【編集長★一直線!】

SOS団が不法に占拠している文芸部室を生徒会の圧力で撤去されないために、文芸活動をする羽目になったSOS団メンバーたちによる執筆記録。
ハルヒの中では、SOS団vs生徒会という構図がバチバチと火花を散らしているんだろうなと想像容易いですね。
まぁ、実際のところは生徒会の方が至極正論であるのですが。
それをハルヒもキョンも無意識で理解しているため、生徒会長の会誌作りの条件を飲んだのでしょう。
ハルヒの場合、単純に面白そうだからと考えた可能性も否めませんけどねw
実際、みんなで何かを作るという共同作業は楽しそうで、執筆自体を苦労はしても、制作に躍起になるSOS団員たちは決して嫌そうに見えませんでしたし。

団員たちの書いた中では、みくるや長門もいいけど、キョンの小説モドキが一番面白かった。
オチは何となく読めても、先が気になりました。

努力家で真面目なみくるが健気で可愛いなぁ。
うーん、うーんと唸りながらも頑張って文章を綴ろうとする姿は、とても上級生に見えない愛らしさ。
マスコット的な意味で獲ってきたハルヒの慧眼は認めざるを得ませんね。

【ワンダリング・シャドウ】

春休みも間近に迫った学年末にSOS団に調査の依頼が舞い込んだ話。
何とも懐かしさを感じる展開ですね。

こうしてみると、いかにハルヒが成長したかが分かります。
古泉が冬休み辺りから言っている通り、ハルヒの精神状態はどんどん安定していってますね。
「溜息」の時からは考えられないぐらい仲間想いになっていて、とても好感を持てます。
キョンへの恋心が見え隠れする頻度が高まってきているのも、ニヤリとしちゃいますね。

初期と比べると落ち着き過ぎていて、勢いが萎んだように感じる人もいるかもしれませんが、短編はほのぼの路線で良いと思います。
シリアスなSF展開は、長編で期待することにしますよ。

青春の1ページを着々と増やすSOS団員たちの日常と非日常の両側面が楽しめます

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B+ 

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涼宮ハルヒの陰謀 

涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)
(2005/08/31)
谷川 流

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読書期間:2011/5/13~2011/5/15

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
構成


 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7



 年末から気にしていた懸案イベントも無事こなし、残りわずかな高一生活をのんびりと楽しめるかと思いきや、ハルヒがやけにおとなしいのが気に入らない。
 こんなときには必ず何かが起こる予感のそのままに、俺の前には現れたのは8日後の未来から来たという朝比奈さんだった。しかも、事情を全く知らない彼女をこの時間に送り出したのは、なんと俺だというのだ。未来の俺よ、いったい何を企んでいるんだ!?
 大人気シリーズ怒濤の第7弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第7弾。
「消失」以来の長編であり、420ページを越える過去最厚の本でもあります。
色んな人物の陰謀が渦巻き、風向きが変わりつつある伏線が張り巡らされた回でした。

導入部が素晴らしい。
巻数にして2冊分棚上げされていた世界改変時の解決編は、まさに待望の話でした。
「消失」で最後まで語られずにヤキモキしていたので、やっとスッキリしましたよ。

そして、ようやく落ちついたと思ったのも束の間、近未来からみくるが時間移動してきて一騒動が巻き起こります。
8日後の未来からキョンに言われるがままにタイムリープしてきたみくるは、何も知らないという。
この展開には、期待の高まりを抑えられませんでしたね。
同じ時間軸上に同一人物がいる世界は、ドキドキハラハラする緊張感があって楽しいなぁ。
中盤以降、若干グダグダするところは惜しいものの、忙しない展開が面白かったです。

表紙を飾っているみくるが、今回の主役のはずなんですが、相変わらず何も分かってないので、中心に居るのに無知という可哀想なことになっています。
彼女は、キョン以上に巻き込まれ型ですね。
作者のあざとさを感じるほどに、純真で可愛かったです。
個人的には、恋人にしたいというよりも娘に欲しいタイプですね。

キョンは、みくるに対して紳士すぎる。
内心では過剰なまでに崇拝し、計り知れないほど好意を抱いているというのに、全然手を出そうとしないからもどかしい。
実際に抱きしめたり、押し倒すぐらいのことをやって欲しいもんです。
萌えキャラとしてSOS団に入団したみくるなのに、ラブコメ要素は意外と少ないですからねぇ。

長門は、人間味のある言葉を発するようになったなぁ。
感情的な台詞を吐くたびに、ハッとさせられます。
能力の縮小化に繋がるのかもしれませんが、長門個人としては良い傾向だなって思いますね。

何気に一番可愛かったのは、古泉かもしれません。
時間旅行をおねだりしたり、体験したキョンに聞きたがったり、喜々として解説したりと妙に萌えポイントが豊富でしたw
キョンと古泉の会話は、本当に楽しいなぁ。

タイトルにもなっているハルヒの陰謀は、途中で気付きました。
巧妙に隠してはいますが、ヒントも多かったので予想がついちゃいましたね。

やっぱり、未来は知らないからこそ楽しいんだろうなぁ。
物語上仕方がないとはいえ、規定事項をなぞるような構成は、作業のように感じられましたし。
未来人が絡む話は好きなんですが、作り方は難儀してそうですね。

カラーページのハルヒ、みくる、長門の三人娘が無茶苦茶可愛かったです。
他の絵師さんと比べ、飛び抜けた画力があるというわけではないはずなんですが、キャラクターの魅せ方が上手いのかな。

なるほど、この頃から「分裂」以降の伏線も張られていたんですね。
再読でなければ気付きませんでした。
これは、今後の大きなうねりを感じさせますね。

新たなる局面を予感させる伏線が盛り込まれた転換期の前段階

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価A- 

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涼宮ハルヒの動揺 

涼宮ハルヒの動揺 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの動揺 (角川スニーカー文庫)
(2005/03/31)
谷川 流

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読書期間:2011/5/11~2011/5/12

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観



 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 幻にしておきたかった自主映画だとか突然のヒトメボレ告白、雪山で上演された古泉渾身の推理劇や朝比奈さんとの秘密のデート。
 SOS団を巻き込んで起こる面白イベントを気持ちいいくらいに楽しんでいる涼宮ハルヒが動揺なぞしてる姿は想像できないだろうが、文化祭のハプニングであいつが心を揺らめかせていたのは確かなことで、それは俺だけが知っているハルヒの顔だったのかもな――。
 お待ちかね「涼宮ハルヒ」シリーズ第6弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第6弾。
前巻に引き続き短編集です。
本当にこの作品は、短編の割合が多いですね。

いとうのいぢさんのイラストが、安定し出したのはこの頃からでしょうかね。
表紙のハルヒや口絵のみくるが可愛くて目の保養になります。

【ライブアライブ】

文化祭当日の話。
「溜息」では、映画製作だけに一冊を費やした結果、肝心の文化祭模様がほとんど描かれず仕舞いだったので、不完全燃焼なところがありました。
確かに、イベント当日よりも前日までの準備の方が楽しいとよく言われますが、やっぱり祭りの賑わいがないと、メインディッシュを抜いたディナーみたいな印象を受けます。
そういう意味では、念願のエピソードだったとも言えます。

しかし、この話に限っては、アニメ版のインパクトが強すぎますね。
神懸かっていた音楽の演出と比べるのは、可哀想ですけど。
戸惑った表情をするハルヒは、可愛げがあって大変よろしいです。

【朝比奈ミクルの冒険 Episode 00】

「溜息」にて撮影された映画本編。
支離滅裂もいいところな無茶苦茶な内容なのは、見るまでもなく分かっていましたよ、ええ。
何だか「溜息」をカメラのレンズを通して再構成された感じ。
おかげで、新鮮味はありませんでした。

【ヒトメボレLOVER】

キョンの中学時代のクラスメイトが、キョンの身近にいる女の子に一目惚れした話。
それが誰なのかは読んでからのお楽しみですが、反応が非常に可愛かったということだけは言及しておきます。
嫉妬するキョンにニヤニヤさせられるラブコメの王道的な展開が面白かった。
オチが意外で驚きましたね。

【猫はどこに行った?】

「雪山症候群」直後の話。
古泉主催によるSOS団ミステリーツアー第2弾です。
推理劇については、古泉の苦労が垣間見れて面白かったです。
いつものハンサムスマイルを崩して、不安な表情を浮かべる古泉は新鮮でした
夏合宿の時と比べると結構単純だったのは、ネタが尽きたんでしょうかねw

【朝比奈みくるの憂鬱】

時系列的には、最新となる三学期の話。
アンニュイな面持ちのみくるからデートのお誘いを受けたキョンがホイホイと付いていく話です。
次回以降の伏線を匂わせる内容で、種を蒔いたって感じ。
キョンとみくるが、互いの心を理解する流れが秀逸でした。

いつもと異なる方向へ揺れ動くSOS団員達の心情が新鮮

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B+ 

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涼宮ハルヒの暴走 

涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの暴走 (角川スニーカー文庫)
(2004/10/01)
谷川 流

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読書期間:2011/5/6~2011/5/10

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
青春


 ★★★★★★☆☆☆ … 7
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8



 夏休みに山ほど遊びイベントを設定しようとも、宿敵コンピ研が持ちかけてきた無理無茶無謀な対決に挑もうとも、ハルヒはそれが自身の暴走ゆえとはこれっぽっちも思っていないことは明白だが、いくらなんでもSOS団全員が雪山で遭難している状況を暴走と言わずしてなんと言おう。
こんなときに頼りになる長門が熱で倒れちまって、SOS団発足以来、最大の危機なんじゃないのか、これ!?
 非日常系学園ストーリー、絶好調の第5巻!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第5弾。
短編集のため時系列はまちまちですが、「消失」の続きの話もあります。
発刊順に読まないとネタバレを食らいますので、飛ばさずに順番に読むことをお薦めします。

【エンドレスエイト】

SOS団の長い夏休みを描いた短編。
もはやアニメ版の方が有名になってしまったエピソードでもありますね。

純粋に好みです、この話。
堪能していた夏季休暇に思わぬ落とし穴が待っていたというか、既に迷宮に入り込んでいたという事実に気付く流れは、実にワクワクさせられます。
時間概念のトリックは、シリーズでも見ていて一番楽しいです。
それにしても、一応専門分野であろう話なのに、みくるは活躍しないなぁ……w

【射手座の日】

文化祭もつつがなく閉幕し、日常の落ち着きを取り戻した秋の日を描いた短編。
コンピ研とゲームで対戦することになる話。

今までの中で、一番平和なお話なのではないでしょうか。
SOS団員の反応が、みんながみんな、らしくてニヤニヤしちゃいます。
ハルヒの暴走が騒がしくて面白く、みくるの鈍重さに微笑ましい気持ちになり、長門のスーパーテクに爽快感を覚え、古泉とキョンの信頼感の厚い会話が楽しい。
他の話に比べると、特別と呼べるような出来事はないのですが、だからこそSOS団という仲の良いグループに嫉妬してしまいますね。

【雪山症候群】

冬休みにやってきた雪山で遭難したSOS団が、クローズドサークルに陥る中編。
「消失」直後の話で、文章量から見ても今回のメインとなるエピソードといえます。
今巻では、2011年現時点で唯一アニメで放送されていない話でもあります。

作中でもキョンや古泉が気付いている通り、ハルヒの変化が見て取れますね。
ツンデレで素直に受け取れないところがありますが、団員をちゃんと友人として大事に想っているのが節々から伝わってきて、キョンならずとも嬉しくなります。
長門もまた自律進化の兆しが見られ、成長を感じさせます。

それに対して、みくるの頼りにならなさが浮きまくっています。
危機感が不自然なぐらい足りない。
天然で済ませるには、ちょっと異質な何かを感じました。
ただの勘違いなのか、それとも将来的な伏線なのか、少々気になります。

見所が多く話も面白かったです。
長門の脱落で緊迫した事態に陥ったSOS団で、古泉の頼もしさが光りました。
理知的で偽悪的なスマイルを浮かべる古泉と、それを平然と流すキョンのコンビは大好きです。
しかし、話の畳み方が、唐突かつ乱暴なところがあり、それだけが残念でしたね。

非日常的な状況に巻き込まれつつも、充実した高校生活を送るキョン達が羨ましくなります

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価A- 

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涼宮ハルヒの消失 

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)
(2004/07)
谷川 流

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読書期間:2011/5/1~2011/5/5

【評価……A+
発想 ★★★★★★★★★ … 9
設定 ★★★★★★★★★
 … 9
物語 ★★★★★★★★★
 … 9
人物 ★★★★★★★★★★
 … 10
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
SF
ラブコメ
世界観
完成度
構成

 ★★★★★★★★ … 9
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8


 「涼宮ハルヒ?それ誰?」って、国木田よ、そう思いたくなる気持ちは解らんでもないが、そんなに真顔で言うことはないだろう。だが他のやつらもハルヒなんか最初からいなかったような口ぶりだ。混乱する俺に追い打ちをかけるようにニコニコ笑顔で教室に現れた女は、俺を殺そうとし、消失したはずの委員長・朝倉涼子だった!
 どうやら俺はちっとも笑えない状況におかれてしまったらしいな。
 大人気シリーズ第4巻、驚愕のスタート!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


「涼宮ハルヒ」シリーズ第4弾。

これを名作と言わずとして何という。
シリーズ内最高傑作と呼び声の高い作品は伊達ではありません。
紛れもなく傑作です。

クリスマスも近づいた冬のある日、それは唐突に訪れる。
キョンが異変に気付いたときには、既にハルヒやSOS団の存在が消失していた。
全てがなかったことにされた世界に恐怖し足掻くが、活路を見出せない。
果たしてキョンは何を選択するのか。
ハルヒは何処へ消えてしまったのか。
謎に満ちた導入から展開されるSF要素満載のストーリーです。

初めて読んだ時のインパクトは絶大でした。
それまでのハルヒの長編は、物語の始動が遅く、ダラダラとしているのが欠点でしたが、「消失」は開始早々から強烈な牽引力で引き込んでくれます。

怪しげな組織をバックにつける古泉、未来を知る朝比奈さん(大) 、そして何より絶対的な能力を有し数々の問題を解決へと導いてきた長門の存在は、如何様な事態も収束へ向けてくれる安心感がありました。
だからこそでしょう。
過剰なまでの長門のスーパーマンっぷりを見てきただけに、絶望感は底知れないものとなっています。
頼りになる仲間たちが消失し、孤立に陥ったキョンの焦燥っぷりは、仕方がないでしょう。
心細いというレベルではなく、あまりの喪失感と八方塞がりな状況に諦観せざるを得ません。
いやはや、まんまと作者にやられてしまいました。

まず、ストーリーラインが秀逸。
このために「憂鬱」「溜息」「退屈」の物語を積み重ねてきたと言われても信じるほど。
250ページ程度という、どちらかといえば薄い本にも関わらず、濃厚さは他の長編の遥か上をいきます。

緩急の付け方が素晴らしい。
停滞させるところは重々しく、希望は神々しく見せ、かと思いきや急転直下する状況に目を離すどころか、息をつく暇すらありません。
初読した数年前は、夢中を飛び越えて没頭するように読み耽った記憶があります。

ネタバレになるため多くは語れませんが、「消失」で使用されている設定には鳥肌が立ちました。
個人的な好みを抜きにしても、これでテンションが上がらなければ嘘だろうってもんです。
さりげない話が伏線となっており、ただの情報に過ぎなかった点が繋がった時の爽快さは、思わず声を出してしまいそうになります。
SF展開もギミック、ロジックともに素晴らしく、何より面白い。

キャラクターは、立ち位置まで精密に計算されているかのように完璧。
これまで斜に構えていたキョンが、己を直視して本心を自覚する展開は痺れるほどに熱い。
主体性がなく、ハルヒや他のSOS団員達に流されるまま過ごし、たまに口を出すポジションという傍観者の立場を捨て、自ら飛び込む意志を見せる様は、まさにこれぞ主人公といった姿でした。
キョンにとっては、まさしくここが本当の意味でのスタートラインになるんでしょうね。

各ヒロインたちは、さらにそれを上回ります見せ場が用意をされています。
中でも長門は、消失長門という言葉でカテゴライズされるほど人気が出ました。
今巻で長門派が大幅増となったのは、疑いようがないでしょうね。
事実、自分も転んだうちの一人です。
小動物系の女の子はたまりません。

出番こそ少なめのハルヒですが、存在感は抜きん出ていますね。
時系列でいえば、「溜息」の文化祭以降のハルヒは結構好きだったりします。
明らかに彼女の中に変化をもたらしているのが見てとれるのが嬉しい。
長門とは別の意味で、頼もしさを覚えます。
行動力のある彼女の魅力が存分に出ていました。

再登場を果たした朝倉を始めとした脇役も光りますね。
谷口、国木田もイイ味出しています。

「涼宮ハルヒ」シリーズ……というか、昔のラノベにありがちなことに、イラストの指定が間違っていますね。
まぁ、ある意味ネタバレを避けた形になっているため、ありといえばありですが。
この当時のいとうのいぢさんは、まだ描き慣れていないように感じられますね。
ハルヒが、シャナっぽくも見えました。

完成度が非常に高い作品です。
唯一惜しい点は、結末が締めきっていないところかな。
これは、先が気になり過ぎますよ。
出来ることならば、全てを今巻で片づけて欲しかった思いは残りました。

思い出補正がないとは言い切れません。
しかし、名作であるのは間違いないでしょう。
1~3巻をツマラナイと思った人はともかく、微妙だと感じた程度ならば、是非とも「消失」までは読んで判断して欲しいですね。
このカタルシスを体験しないのは、損しますよ。

⇒ <劇場版『涼宮ハルヒの消失』感想

葛藤する主人公が決意するまでの心理を丹念に描いた渾身の一作

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価A+ 

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涼宮ハルヒの退屈 

涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの退屈 (角川スニーカー文庫)
(2003/12)
谷川 流

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読書期間:2011/4/20~2011/4/22

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
SF
ラブコメ
世界観
青春


 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8



 ハルヒと出会ってから俺はすっかり忘れた言葉だが、あいつの辞書にはいまだに“退屈”という文字が光り輝いているようだ。
 その証拠に俺たちSOS団はハルヒの号令のもと、草野球チームを結成し、七夕祭りに一喜一憂、失踪者の捜索に熱中したかと思えば、わざわざ孤島に出向いて殺人事件に巻き込まれてみたりして。
 まったく、どれだけ暴れればあいつの気が済むのか想像したくもないね……。
 非日常系学園ストーリー、天下御免の第3巻!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


涼宮ハルヒシリーズ第3弾。
「ザ・スニーカー」で掲載されたエピソードが多く含まれた、初の短編集です。

「憂鬱」と「溜息」の間の半年間で巻き起こったSOS団の活動記録といえば分かりやすいかな。
収録されている4話とも、基本的には似たような構成となっています。
身も蓋もない言い方をすれば、ハルヒの思いつきで振り回されるSOS団員の苦労話ですね。
全てアニメ化されている内容なので、原作未読の人でも知っている話は多いと思われます。

どれもこれもキャラの魅力を存分に引き出した話で、とても楽しく読めました。
巻数を重ねるごとに肉付けされていくキャラが、独り立ちしたかのように動き回るため、見ていて飽きません。
「溜息」では不快だったハルヒの横暴さは鳴りを潜め、良い意味でアクティブな面が目立ちました。

【涼宮ハルヒの退屈】

表題作にもなっている短編が第1章。
タイトルとは裏腹に、ハルヒが草野球大会で大暴れする話。
どうやら「憂鬱」よりも先に発表された、シリーズ最古の物語だそうです。
確かに言われてみれば、本編の縮図ともいえるようなバランス構成となっていて、SOS団員みんなの良さが万遍なく出ていますね。

【笹の葉ラプソディ】

ギミックの面白い超重要なエピソード。
宇宙人や超能力者も悪くはないですが、個人的には時間移動が最もドキドキさせられる設定ですね。
ヒロイン三人娘のちょっと変わった姿が見ることができるのは、ポイント高し。
何気にハルヒとの出会いの伏線を回収していたりと、緻密な設定が光ります。
今巻の中で、一番のお気に入り。

【ミステリックサイン】

SOS団結成以来初の外部からの依頼により、とある調査を行うことになったハルヒ達。
いつも通り、ハルヒだけが気付かないところで事態は急転しているというテンプレ的なお話。
長門が活躍する話……と言いたいところですが、あの万能宇宙人の出番がない話なんてほぼないよなぁw

【孤島症候群】

夏休みのバカンスが思わぬ展開となる書き下ろしの中編ミステリー。
他とは毛色が違うサスペンス風味なんですが、こんな場面の古泉は活き活きとしていますね。
爽やかな二枚目スマイルを浮かべながら、止め処なく語り続けるスタイルは癖になります。
アニメ版で大きく脚本が書きかえられましたが、こればっかりは正解だったと思いますね。

仲間と過ごす青春的な日常の裏で繰り広げられる非日常展開という仕組みが面白い

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B+ 

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涼宮ハルヒの溜息 

涼宮ハルヒの溜息 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの溜息 (角川スニーカー文庫)
(2003/09)
谷川 流

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読書期間:2011/3/26~2011/3/30

【評価……B-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
人物 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
文章 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
SF
ラブコメ
世界観
構成


 ★★★★★★☆☆☆☆ … 6
 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6



 宇宙人未来人超能力者と一緒に遊ぶのが目的という、正体不明な謎の団体SOS団を率いる涼宮ハルヒの目下の関心事は文化祭が楽しくないことらしい。行事を楽しくしたい心意気は大いに結構だが、なにも俺たちが映画を撮らなくてもいいんじゃないか?
 ハルヒが何か言い出すたびに、周りの宇宙人未来人超能力者が苦労するんだけどな――スニーカー大賞<大賞>を受賞したビミョーに非日常系学園ストーリー、圧倒的人気で第2弾登場!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


言わずと知れた「涼宮ハルヒ」シリーズ、第2弾。
再読感想です。

1巻の「憂鬱」から一気に時間が経過した半年後の秋。
ハルヒの突発的な提案という名の命令で、文化祭で発表する映画を撮ることになったSOS団メンバー達。
傍若無人なハルヒに振り回されながらも、撮影に勤しむキョン達だったが、もちろん平穏に事は終わりません。
嵐を呼び寄せる女・涼宮ハルヒによって降り注がれる難題の山々の前に、自称一般人であるキョンの苦悩する……という流れで始まります。
記念すべきアニメ第1話「朝比奈ミクルの冒険」のメイキングストーリーですね。

さて、2巻目にして、早くも問題作の登場です。
明らかに異色であり、意欲作でもあるが故に、賛否両論の激しい巻となっています。

はっきりいって、単独では限りなく厳しい評価になるのは避けられません。

確かに、一度は完結した作品を広げ直して再構築させ、伏線を散ばせることは成功しています。
しかし、その結果、「溜息」自体の面白さを損なうことになっていまいました。
土台作りや隠しネタを仕込むことは、もちろん今後のことを考えると重要なんですが、だからといって過程を蔑ろにしては駄目でしょう。
後々考えると感心できる内容であっても、それとこれとは話が別です。

問題その1・ハルヒの度が過ぎる横暴さ。
普段から我が儘ではありますが、今回のハルヒは酷すぎる。
目眩を覚えるほどの非道さに、読んでいてムカムカと苛立ちました。
人として、越えてはいけないラインを大幅に通り越していて、とてもじゃないですが許すことなんかできません。

物語の観点から捉えるのであれば、涼宮ハルヒにとっての転換期であり、必要不可欠だったのかもしれません。
ただ、見せ方があまりにも悪過ぎて、ハルヒ個人のイメージは最悪です。
友人に対するものとは思えない態度、支離滅裂で自分勝手すぎる行動、自己中心的で他者を寄せ付けない強引さなど、「憂鬱」の時ならば上手く長所となっていた面も、全てがマイナス側へと傾いてしまっています。
おかげで、瞬間的なデレを見せたところで、到底回復できない地点まで達しています。

問題その2・キョンの乱暴な独白。
表現の面白さは買うのですが、何故か今巻のキョンは、驚くほどに口が悪い。
半年間SOS団で活動を行い、多少なりとも信頼関係を築いたであろうにも関わらず、初期より辛辣です。
親しくなったことで軽口を叩くようになった、というのとは違うしなぁ。
再読の場合、長門への心情がなおのこと違和感ありました。

問題その3・古泉の説明のクドさ。
面倒臭く長ったらしい考察は、どちらかというと好きな方なんですが、さすがにしつこい。
しかも、話が同じところを回っているので、閉塞感があって不毛です。

問題その4・物語の起伏にムラがある。
グドグドな展開が続き、いつまで経っても盛り上がって来ずに、そのまま終局となってしまいました。
中盤に見せ場はありますが、終盤は尻すぼみしています。
オチは秀逸だと思う反面、あっさりとしすぎていて肩透かしを食らった気分になりますね。

面白くないわけではありませんし、光る部分もあるのですが、欠点が目立つ内容になっているのが残念。
どうしても微妙に感じてしまいますね。
この「溜息」のせいで、続きを読まなくなった人がいるとすると、勿体無さすぎます。
時系列順に本を出せばよかったのにと思いますけど、今更ですね。

神に等しい能力を無自覚に発揮する女の子のフォローをする宇宙人や超能力者の話

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  涼宮ハルヒの憂鬱  谷川流  いとうのいぢ  評価B- 

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涼宮ハルヒの憂鬱 

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)
(2003/06)
谷川 流

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読書期間:2011/1/4~2011/1/7

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★★ … 9
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
SF
ラブコメ
世界観
完成度


 ★★★★★★☆☆☆ … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★
 … 9



 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」。
 入学早々、ぶっ飛んだ挨拶をかましてくれた涼宮ハルヒ。そんなSF小説じゃあるまいし……と誰でも思うよな。俺も思ったよ。だけどハルヒは心の底から真剣だったんだ。それに気付いたときには俺の日常は、もうすでに超常になっていた――。
 第8回スニーカー大賞<大賞>受賞作、ビミョーに非日常系学園ストーリー!

【感想】


今やラノベ読者に限らず、オタク文化を好む者であれば知らない人はいないであろう超有名作品。
アニメ版は京都アニメーションの名を世に轟かせた、角川スニーカー文庫の看板タイトルです。

シリーズのファンは、国内にとどまらず、海外でも熱狂的なファンが多数存在しています。
さらには、作家志望者に多大な影響を与え、類似作品が山のように生まれました。
まさしく00年代ライトノベル業界の代表作品といっても決して過言ではないでしょう。

さて。
そんなメジャータイトルを今更感想を書かなくても、そこらじゅうに溢れかえっていますが、せっかくなので自分が感じたことを書き残したいと思います。

2011年の1冊目として読んだ今巻ですが、通算では5回目くらいの再読になります。
これだけ読みなおしたラノベは、他に1,2冊あるかどうか。
それだけ思い入れ深い特別な一冊です。

初読はアニメ放送第一期放送終了直後の2006年8月。
アニメ1話を見た瞬間にこれは絶対に面白いという確信を得ましたが、先に原作を読んでしまうとアニメが楽しめくなるかもしれないと思って、最終話を視聴するまで手をつけなかった思い出があります。
その判断が正解だったかどうかは分かりませんけど、当時の最新刊である「涼宮ハルヒの憤慨」までノンストップで読んでしまうぐらいハマりました。

内容については、アニメの作りが丁寧過ぎて、原作ならでは得られる充実感というのがほぼありません。
つまり、初見であるにも関わらず、既にほとんど把握済みという状態でした。
おそらく、自分みたいな人は大勢いたんじゃないかな。

何といっても特徴的なのが、主人公・キョンの語り口でしょう。
地の文が、流暢な喋り言葉でなだれ込んで来るのは、実に衝撃的でした。
これがハルヒの評価を決定づける上で、最も大きなポイントになっていると思われます。
事実、テンポの良さに病み付きになる人もいれば、嫌悪感を覚える人だっています。
ちなみに、言うまでもなく自分の場合は前者でした。

ライトノベルという分野において、この軽さは武器になります。
一つの文章における面白味を損なうことなく、サクサクと読める為、非常に心地良いんですよね。
登場人物が活き活きしているのも長所の一つですが、それもこの文体のおかげともいえます。
読者はキョンに同調することで、シンパシーを得ることができました。

キョンだけではなく、取り巻く仲間達も魅力的です。
我が儘なツンデレ娘であり台風のように騒がしいヒロイン・涼宮ハルヒを筆頭に、無口系キャラの王道を往く万能少女・長門有希、天然ロリ顔巨乳の癒し系お姉さん・朝比奈みくると、スタンダードが故に外れもない可愛い女の子達。
そして、キョンを除くと唯一の男子である二枚目・古泉一樹も含めた計5人の集まりは、中高生を中心とするラノベ読者にとっては憧れを覚えるほどのものでした。

第1巻となる今作では、まだキャラ紹介程度にしか話が進んでいません。
説明に量を費やし、ストーリーに関しては終盤にちょっとだけ進展するかなってレベルです。
とはいえ、セカイ系の基本的な骨格は形成されていて、完成度は間違いなく高いと思います。
これが新人作品だったわけですから、そりゃあ大賞を受賞するでしょうね。

イラスト担当は、これまたハルヒで名を馳せたいとうのいぢさん。
この作品が流行った理由の一つでもあるキャラ造形は、古さと新しさがミックスされたもので、テンプレ的な要素も踏まえつつ独自の色を出すことに成功しました。
挿絵は、渾身のイラストと比較すると、何気に結構粗かったりするので過度な期待は禁物です。

何度も触れすぎて素直な感想は書きにくくなってしまいました。
それでも、面白いといえる名作だと思います。
ラノベの入門書に相応しい本のうちの一冊ですね。

非日常に憧れる自由奔放な女の子と、それに振り回されダルそうな男の子のボーイミーツガール

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

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サクラダリセット4 GOODBYE is not EASY WORD to SAY 

サクラダリセット4  GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)サクラダリセット4 GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)
(2010/11/30)
河野 裕

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読書期間:2010/12/17~2010/12/20

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 7
透明感
切なさ




 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7





 「リセットを、使えません」
 相麻菫の死から二週間。浅井ケイと春埼美空は、七坂中学校の奉仕クラブに入部する。二人は初めての仕事を振られるが、春埼はリセットを使えずにいた。相麻の死をそれぞれに考えるケイと春埼。ケイは、相麻が死んだ山へと向かい……。(「Strapping/Goodbye is not an easy word to say」)。
 中学二年の夏の残骸、高校一年の春、そして夏――。壊れそうな世界をやわらかに綴る、シリーズ第4弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


タイトルだけでは分かりませんが、シリーズ初の短編集となっています。
とはいえ、本編に密接する重要な要素もあるため、読み飛ばしは避けた方がいいでしょう。

ほとんどが「ザ・スニーカー」で掲載されたもので、書き下ろしは一本のみとなります。
その唯一が3巻ラストの続きであり、あらすじにある「Strapping/Goodbye is not an easy word to say」ですね。

相麻菫の死後間もない時期ということもあり、沈痛な空気が肌に突き刺さる話でした。
ケイと春埼の距離感や関係が今に至った理由が明らかとなります。
この二人の特殊性は、とても一言では言い表すことはできませんね。
言葉を交わし過去を積み重ねてきた結果、お互いを求める理由が出来ていた、ということでしょうか。
感情量は細い糸のようなものなのに、結びが強固で解ける気配がありません。
しかし、何だかこの糸が近い未来に切れるようなことがありそうで、不安を覚えました。

その他の短編も少し切なく、だけど優しいエピソードとなっています。
澄んだ空気の表現力が本当に素晴らしい作者さんですね。
短編集となっていても、シリーズ通しての透明感のある雰囲気は失われていません。

その一方で、短編の合間に挟まれているショートショートは、ほんわかとしていて面白い。
春埼視点で描かれるあったかいエピソードで、彼女の魅力が随所に出ていました。

・「ホワイトパズル

最後に「サクラダリセット」と全く関係のない短編が収録されています。
過去に「ザ・スニーカー」で掲載されたらしく、作者にとってのデビュー作であるそうです。
「サクラダリセット」の告知をする意図もあって、雰囲気が酷似しているため、最初はシリーズに関連する作品だと思っていて、半分ぐらい読んでようやく別物なんだと気付きました。

綺麗な空気や洗練された文章は、まさに作者ならではといった感じ。
設定は凝っていても見せ方はシンプルで、テーマにブレがありません。
登場人物たちの儚い想いが心に染み込むようでした。
これだけでも今巻を買う価値があったと思えるぐらい面白かったです。

それにしても、半ページだけの挿絵や関係のない短編が入っているのをみると、少女漫画を連想してしまうのは自分だけでしょうか。

本編よりも恋愛要素が香る切なく優しい短編集

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B 

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サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN 

サクラダリセット3  MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)
(2010/08/31)
河野 裕

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読書期間:2010/10/7~2010/10/9

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
安定感




 ★★★★★★★★ … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8





 「どうして、君は死んだの?」
 “記憶保持”の能力をもつ浅井ケイ、“リセット”の春埼美空、そして“未来視”の相麻菫。
 二年前。夏の気配がただよう、中学校の屋上で、相麻は問いかけた。
「私たちの中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」
 夏の終わりに向けて、三人は考え続ける。アンドロイドは誰?最も人間からかけ離れているのは、誰――?
 二年前死んでしまった少女と、すべての始まりを描く、シリーズ第3弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


特殊な能力者が集う街・咲良田で、少年と少女たちが織りなす不器用で優しい物語、第3弾。
物語の始まりとなる、浅井ケイ・春埼美空・相麻菫の3人の出会いを描いた過去編となっています。

とても美しい物語でした。
読了後の感覚は、哀しいのか、嬉しいのか、自分でも判断がつきません。
しかし、この本に出会えて良かったということだけは確実です。

このシリーズを読んでいて毎回思うんですけど、まるでガラス細工のような物語ですね。
透き通るように綺麗な美術品のような印象と、砕け散ると元に戻せない危うさを感じさせます。
更に今回は、ラムネの瓶という小道具が、より一層そのイメージを強固にさせる手助けをしています。

ガラス細工」という表現を複数の感想記事で見かけましたが、これって何気に凄いことですよ。
作中で使用しているフレーズならともかく、印象の具現化が一致するってことは、それだけ作品の雰囲気が一貫して描かれているということですから。
空気を思い通りに表現できる作家さんは、貴重ですね。

洗練され、研ぎ落された文章が、恐ろしく魅入ります。
余計な装飾がないシンプルさは、直接心に侵入してきて、全身に響き渡るようです。
温もりとはまた違う、人間味を肌で感じ取ることができるような言葉選びにはセンスを感じずにはいられません。

はっきりいって高校生でも違和感あるのに、小中学生の思考としては賢すぎる状況判断などもあるんですが、三者三様の理由で何となく納得できてしまうのは登場人物の掘り下げが成功しているからでしょうか。
その中でも顕著なのが、浅井ケイの捻くれた善人っぷりです。
彼の思考回路は複雑に見えて本質は単純なんだけど、それをひた隠しにしているために裏表があるように見えるんですよね。
相麻菫や中野智樹が上手い表現で指摘なり説明なりしていましたが、それでようやく少しケイを理解できたような気がしました。

春埼美空の感情が乏しい理由は、なんとも皮肉でした。
この娘の純粋な心は、知れば知るほど無垢すぎて怖くなってきますね。
完全な無色透明ではなく、ほんの僅かながら色付けされていることが、彼女の人柄の良さを表わしているんだけど、彼女自身がそれに気付かないんですよねぇ。
もどかしいと感じるケイの気持ちに共感しましたよ。

そして、謎に包まれていた相麻菫の人物像や能力、そして2年前に死んだ経緯が明かされます。
まだ中学生の彼女が抱える運命や未来の重さは、質量があるかのように圧し掛かってきます。
真実を知った時、切なさとか苦しみよりも、嘆きが先に出てきました。
最後のあの言葉は、果たして彼女に届いたのかな……。

ケイが咲良田に来た理由、家族と離れている訳、土台となる環境は出揃いました。
しかし、一つの謎が明かされたと同時に、新たな謎が生まれています。
何故、彼女は死ななければならなかったのか。
ここからが本当の始まりなのかもしれませんね。

ある一つの未来が決まっているボーイミーツガール

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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会長の切り札 逆転プランの用意あり!  

会長の切り札  逆転プランの用意あり! (角川スニーカー文庫)会長の切り札 逆転プランの用意あり! (角川スニーカー文庫)
(2009/11/28)
鷹見 一幸

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読書期間:2010/7/31~2010/8/1

【評価……C
発想 ★★★★★☆☆☆☆☆ … 5
設定 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
物語 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
人物 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
文章 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
ラブコメ





 ★★★★☆☆☆☆☆ … 5







 高校対決のラストゲーム、商店街を使用した実物モノポリーがついにスタート!
 樫森高校の真行寺と桜川女子の華之宮は命運を託してサイコロを振り、両校の精鋭メンバーが激突する!
 白熱する一進一退の攻防が繰り広げられるなか、光明は確信の笑みを浮かべていた。それは、三校の統廃合問題を解決する最後の大仕掛けの成功が見えはじめたからだった――。
 母校存続を願い、奮闘する高校生たちを描いた現代版国盗絵巻、ここに終幕!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


高校存続と町村合併問題を解決するために、高校生達の真剣勝負が繰り広げられるシリーズ最終巻。

綺麗に収まっていると言えば聞こえはいいですが……。
何というか、面白さに繋がっているようには感じられませんでしたねぇ。

理由はいくつかありますけど、やはり最大の原因は文章でしょうね。
3巻感想の時に指摘した説明口調のわざとらしさに、最後まで肌が合いませんでした。
伏線らしい伏線はなく、新しい事象が出てきたらその場で説明ってのは、どうなのか。

決着についても、予想通り過ぎて驚きはありませんでした。
サブタイトルの逆転のプランが、それこそ起死回生のものであれば良かったんですがね。
リアリティを重視するのは結構ですが、面白味に欠けました。
もう少し派手な展開があってもよかったのではないかなぁーと思いつつも、この生真面目路線こそが作風ともいえるので、否定はしづらいですね。

樫森高校vs桜川女子高の後半戦なので、当然ながら3巻同様に楢山高校のキャラは出番少なめです。
いや、ある意味対戦している高校よりも一部キャラは出ているのですが、それはそれで不自然ですね。
そして、堅い性格した人物ばかりなので、薄っぺらく感じてしまいます。

本当に会長の朋絵は、ヒロインだったのだろうか?
必要性がほとんど感じさせなかったなぁ。

もし本当にモノポリー対決がテレビ中継されたとして、観るかというと微妙だと思います。
まぁ、こんな喋りの上手い高校生がいれば別なのかもね。

1,2巻は楽しめましたけど、4巻続けて同じノリだとお腹いっぱいでした。
新シリーズが始まっていますけど、今のところ購入予定はないかな。
KeGさんのイラストは見たいけど、さすがにそれだけでの理由では買えないですしね。

シリーズ当初からの問題提起をきっちりまとめているところが好印象

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  会長の切り札  鷹見一幸  KeG  評価C 

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サクラダリセット2 WITCH,PICTURE and RED EYE GIRL 

サクラダリセット2  WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL (角川スニーカー文庫)サクラダリセット2 WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL (角川スニーカー文庫)
(2010/02/27)
河野 裕

商品詳細を見る
読書期間:2010/7/24~2010/7/29

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
構成
完成度



 ★★★★★★★★ … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 「貴方は、貴方の未来を知りたい?」
 能力者が集う街、咲良田。記憶保持の能力を持つ少年・浅井ケイと「リセット」能力を持つ少女・春埼美空は、管理局の要人に呼び出される。名前を持たず、「魔女」と名乗るその初老の女性は、30年近く隔離され、窓一つない部屋に住んでいた。彼女の能力は、未来を見ること。その役割は、咲良田の未来を監視すること。そして魔女は、自身の死期が近いことを知っていた――。待望の第2弾!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


瞬間記憶能力を持つ少年と、最大3日間巻き戻す能力を持つ少女によるハートフルストーリー第2弾。
話題作となった1巻から結構期間が空きましたね。
理由はあとがきにありましたが、まぁ体調にはお気を付けくださいとしか言えませんw

咲良田の街に集う能力者を統治する組織「管理局」には、未来を知る能力者「魔女」がいた。
彼女は、自身の死期を悟り、ある目的から浅井ケイと春埼美空に接触を求める。
それと時を同じくして、ケイに接近する人物が複数現れて……という流れで物語が始まります。

うん、これはいい。
穏やかでありながら少し切なく、洗練された物語が心に響きます。
まるで、森林に囲まれた静かな湖に小石を投じて形成される波紋を眺めるような感覚ですね。
ただ面白いだけではなく、趣きがあります。

ちょっぴり怖さを感じるほどに綺麗な雰囲気が素晴らしい。
主人公のケイと、ヒロインの春埼が丁寧語を標準で話すこともあって、言葉が凄く美しいんですよね。
一見、感情がフラットに見える二人ですが、だからこそ些細な変化がはっきりと伝わってきます。 
雰囲気を統一させる作者の腕に惚れ惚れします。
新キャラも安易に出しているわけではなく、必要最低限に絞っているのも好感が持てますね。

時間を巻き戻す「リセット」の能力の使い方も巧い。
この手のギミックは、能力が優秀すぎるが故に粗が目立つことが多くあります。
しかし、この作品において、決定的なミスや矛盾は見られません。
能力の組み合わせによる可能性の拡大がお見事で、構成に隙がないのが素晴らしい。

1巻の内容も絡めて伏線を張り直し、新たに展開することに成功した2巻だったと思います。
椎名優さんのイラストが、完璧といえるぐらいに作風とマッチしていて、完成度を高めていますね。
400ページの長編でしたが、飽きたりすることなく最後まで楽しんで読むことができました。

繰り返しに意味のある物語に目を惹かれます

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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シュガーダーク 埋められた闇と少女 

シュガーダーク  埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
(2009/11/28)
新井 円侍

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読書期間:2010/2/1~2010/2/4

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
ロマンス
世界観
完成度



 ★★★★★★☆☆☆ … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 えん罪により逮捕された少年ムオルは、人里離れた共同墓地に送られ墓穴を掘る毎日を送っていた。
 そんなある夜、自らを墓守りと名乗る少女メリアと出逢う。彼女に惹かれていくムオル。だが謎の子供カラスから、ムオルが掘っている墓穴は、人類の天敵・死なずの怪物“ザ・ダーク”を埋葬するものだと聞かされる!
 混乱するムオルは、さらにダークに殺されるメリアを目撃してしまい――!?

【感想】


「涼宮ハルヒの憂鬱」以来、実に6年振りのスニーカー大賞受賞作ということで話題を掻っ攫った今作。
既に各所で多くのレビュー、感想が書かれているので、読んだことがない人でも知っている人は多いかと思われます。

純粋に面白かったと思います。
作風は地味で、なおかつ物語の始動が遅いために、冒頭でつまづいてしまうかもしれません。
しかし、序盤を乗り越えたあとはサッパリとした文章に導かれるように、読み進めていくことができます。

舞台はとある共同墓地、時代設定は近代の欧州を彷彿とさせます。
冤罪により墓穴掘りの労働を強いられる、元歩兵の主人公・ムオル
連れてこられたのは、未知の巨大な化物“ザ・ダーク”を埋葬する墓地。
淡々と穴を掘る日々のムオルだったが、一人の墓守りの少女・メリアと出逢うことで物語が動き始めます。

ラノベのお手本というべきボーイミーツガールですね。
最近よくあるエロさを混入させたラブコメとは異なり、一昔前の作品の実直な匂いがします。
軽すぎず、かといって読み進めていくと意外にも重すぎない内容で、透き通った暗さのある雰囲気が感じられる良作でした。

文章は取り立てて癖もなく、読みやすいのが好印象を抱かせます。
特別キャラに魅力があるわけでもないですが、十分キャラは立っています。
設定や伏線もしっかり練り込まれていて、混乱することはありません。
というか、余計な部分を意識させない、真っ直ぐな恋愛モノとして成り立っています。
どの点においても及第点以上で、全体的な質の高さは、新人離れしていると言っていいでしょう。

それでも地味な印象を抱いてしまうのは、エンターテイメント性の低さに問題があるのかな。
小説としては綺麗なんだけど、もっと読者の感情をアップダウンさせる仕掛けがあっても良かったかも。
王道がゆえに物語の展開が先読みしやすいのも、人によっては評価を下げる要因となります。
淡々と進むものの、個人的には偶にこんな本があってもいいと思いますがね。

<大賞>という冠に相応しいかどうかといわれると、確かに疑問は残ります。
でも、そういった色眼鏡をかけずに読んでもらいたいところですね。
まぁ、帯や宣伝で煽りまくった編集部には責任があるとは思いますよ。
期待度を上げすぎると、相対的に辛口になってしまうところはありますから。

作者のブログによると、二巻の計画が頓挫してしまったようなので、これにて完結のようですね。
多少気になる謎がいくつか残りましたが、締め方がまとまっていただけに、その選択で良かったと思います。
何かと比べられて大変でしょうが、プレッシャーに負けずに次回作も頑張ってもらいたいです。

怪物を埋葬する墓地にて、墓掘りの少年と墓守りの少女が出逢い惹かれあう話

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  シュガーダーク  新井円侍  mebae  評価B 

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会長の切り札 軍師ゲームの裏を読め! 

会長の切り札  軍師ゲームの裏を読め! (角川スニーカー文庫)会長の切り札 軍師ゲームの裏を読め! (角川スニーカー文庫)
(2009/08/01)
鷹見 一幸

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読書期間:2009/10/31~2009/11/5

【評価……C
発想 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
設定 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
物語 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
人物 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
文章 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
ラブコメ ★★★★☆☆☆☆☆
 … 5

見事二連勝を果たし、楢山高校の危機を救った朋絵と光明たち生徒会メンバー。
ところが今度は、樫森高校と桜川女子の対決のプロデュースを任されてしまう。
どうやら勝負の内容についての話し合いが決裂したらしく、光明の手腕を見込んだ藍山が依頼してきたのだ。
しかもその結果は、市の合併問題をも左右するらしく!?
勝負に燃える高校生たちの未来は!?
現代版国盗絵巻第3幕、軍師光明、すべての運命を背負い、あらためて出陣!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


高校存続をかけた対抗戦、第3ラウンド。
楢山高校に敗れた樫森高校と桜川女子高の決着をつける運命の最終戦の前半戦となります。

何故、主人公たちの学校が関わらない勝負が一番文章量が多いのだろう……。
これまでの勝負は一冊で終わっていたのに、今回だけは前後編に分かれているんですよね。
最初からシリーズ化が約束されていた作品なのに、この意図は読めませんね。

ただでさえヒロインの朋絵が空気と化しているのに、一応主役であった光明が当事者でなくなったために主人公不在のような形になってしまっています。
長編作品のシリーズ途中だったら、脇役に焦点を当てるという意味合いも理解できるのですが、次巻完結でこの展開は盛り上がりに欠けます。

まぁ、それはいいとしましょう。
それよりも問題な点がいくつかあります。

まず、今まで以上にキャラの台詞が説明口調すぎるというところ。
急に語り始めたりする登場人物たちを見ていると、NHKや教材用ビデオを見ているような感覚に陥りました。
2巻の感想で渡鬼風と表現しましたが、あれはあれで好みの差は出るだろうけど味があると思うんですよ。
しかし、このシリーズの場合、真面目すぎるというのか、文章に面白味が感じられず、wktk感がありません。

次に、現実世界でも起こりうる話ということを意識しすぎなところ。
これは長所でもあって、1巻では上手く引き込まれたなぁと思わされました。
ただし裏を返せば、それはゲームの規模がどうしても実現不可能だと思われるラインを越せません。
1,2巻での戦国勝負は、その範囲内でありながらもスケールを大きく見せようという工夫などがあったように感じます。

それが、この3巻での勝負が端的に言うとミニゲーム集になってしまったので、ショボく見えて仕方ありません。
しかも、学校全体の話なのに一部の生徒のみだけの勝負となっているのも、いささか不満です。

そもそも一介の男子高校生に過ぎない子どもに、町の問題を押し付ける時点で、非現実的ではあるんですがね。
どれだけ大人たちは情けないんだ。

そんなわけで、この3巻はちょっと微妙でした。

一方で、KeGさんのイラストは、相変わらず素晴らしかったです。
カラーイラストももちろんですが、作中の挿絵に質の衰えがまるで見えないのが凄い。
これからもっとラノベのイラストの仕事をしてくれると嬉しいなぁ。

安全な位置にいる主人公が、脇役達の今後を左右するゲームを企画する話

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  会長の切り札  鷹見一幸  KeG  評価C 

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会長の切り札 忍者ガールで罠をはれ! 

会長の切り札  忍者ガールで罠をはれ! (角川スニーカー文庫)会長の切り札 忍者ガールで罠をはれ! (角川スニーカー文庫)
(2009/03/01)
鷹見 一幸

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読書期間:2009/7/23~2009/7/25

【評価……B-
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
人物 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
文章 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
オススメ度 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
ラブコメ ★★★★☆☆☆☆☆
 … 5

母校存続を賭けた勝負の次なる相手は、伝統を誇る桜川女子高校。対決種目は市街全域を使った陣取合戦に決定した。
戦術が重要と考え、作戦会議を重ねる楢山高校生徒会だったが、桜川女子のスパイが楢高の男子生徒を誘惑し、情報を聞き出していた事が発覚する!
作戦内容が筒抜けと知り、焦る朋絵たち。しかし光明は、すでに対策を練り始めていた。
その鍵を握るのは、日本オタクの留学生・リタだった――!現代版国盗絵巻、第2幕!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


高校の存続を賭けた戦国風勝負、第二番。
むさ苦しい男子校の次は、可憐な女子校が相手です。

面白いのは面白い。
ただ、感想を問われるとまず突っ込みどころを挙げたくなってしまう本だなぁ。
何というか、上手くまとめようとしすぎている、とでも言えばいいでしょうか。

相変わらず説明口調なところが多々見受けられるのは、作品の性質上仕方ない面もあるとは思いますが、ちょっと度が過ぎるかなー。
某ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の演技のように、言葉に堅苦しさを感じることがよくあります。
一人のセリフが長々と続く場面も少なくなく、某ドラマを彷彿とさせますね。
しかし、これはある意味では独特のノリで、味があるともいえるので、一概には否定できません。
拒否反応が出ずに済むのは、丁寧な文章のおかげでしょう。

ストーリーの展開は、ほぼ1巻と同じですね。
導入部分を省ける分、勝負のルール決めと本番にページが割けるのはイイ感じ。
思いがけず話が大きくなっていくワクワク感は薄れてしまいましたが、その分内容が充実しました。
1巻の感想で書いた構成の難は、展開が似すぎていたために完全にとは言えませんが、随分と解消されたと思います。

キャラクターは主に新登場の面々が良かった。
おっぱいがメジャーリーグ級の留学生・リタや、それに対抗心を燃やす桜川女子高生徒会長・華之宮姫子、桜川からの刺客・秋野茜の3人はキャラが立っていて、会話シーンが楽しかったです。
欲を言えば、もう少し姫子に活躍するシーンがあれば嬉しかったかな。

今回の光明はまとめ役になっていますね。
ゲームの戦略性を高める要素を周りが思いつき、それをルールに組む込むことに躍起になっています。
1巻ではまだ良かったんですが、2巻では言うほど凄い作戦を思いついているわけでもないのに、周囲から持ち上げられすぎていて、何だかムズムズします。
他の誰もが光明の策を思いつかないってのは都合が良すぎるんじゃなかなと思ってしまうんですよね。

作者があとがきで仰っている通り、この作品は「現実世界で高校生が戦国バトルを繰り広げることができる理由」を、しっかりと関連付けしながら説明しているおかげで、現実味を与えるのに成功しています。
しかし、実際の勝負の展開に関しては、非現実的な内容がいくつかあって、下手にリアリティを求めている分、そこが逆に浮いてしまっていました。
この勝負、もしも本当にリアルでやったとしたら、きっと盛り上がらないと思います。

ラブコメ分が妙に注入されているのは、編集部の指示か何かなんだろうか。
嫌いじゃないけど、あまりに唐突すぎで何度か噴き出しました。

KeGさんのイラストは、やはりどれも美麗でした。
そういえば、元々表紙買いだったんだよなぁ。
そう考えると、これだけ内容に言及したくなるってことは、十分引き込まれている証なのかもしれません。
今のところ、続きを買わないという選択肢はないですしね。

きちんと回収する伏線が好印象の高校生による戦国バトル

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  会長の切り札  鷹見一幸  KeG  評価B- 

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サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY 

サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
(2009/05/30)
河野 裕

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読書期間:2009/6/27~2009/6/30

【評価……B+
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
オススメ度 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感 ★★★★★★★★☆☆
 … 8

「リセット」たった一言。それだけで、世界は、三日分死ぬ――。
能力者が集う街、咲良田。浅井ケイは、記憶を保持する能力をもった高校一年生。春埼美空は、「リセット」――世界を三日分巻き戻す能力をもっており、ケイの指示で発動する。
高校の「奉仕クラブ」に所属する彼らは、ある日「死んだ猫を生き返らせてほしい」という依頼を受けるのだが……。
リセット後の世界で「現実」に立ち向かう、少年と少女の物語。

【感想】

超能力者が集まる街で起こる少年少女たちのハートフルストーリー。
帯にて乙一氏が大絶賛しています。

久しぶりに事前情報なしで買った本です。
いつもなら評判などを調べてから買うことにしているんですが、この本は店頭であらすじを読んだときの「面白そう」という直感を信じて買いました。
その直感は間違っていなかったようです。
今ではネット上でも良い評判が各所で見られます。

これは当たりでした。
読んでいる最中は設定が面白く、読み終わった後は少し優しい気分になれる良作です。

まず最初に惹かれたのが「リセット」と発するだけで3日分を巻き戻すという能力。
時間移動モノが大好物な自分としては、これだけで飛びついてしまいます。
しかし、ただそれだけの設定ではなく、さらに練り込んであるところが好感を持てます。

「リセット」の能力者であるヒロイン役・春埼美空は、自らの記憶までもリセットしてしまいます。
一度見聞きしたものを忘れない能力を持つ主人公・浅井ケイと一緒に行動することによって、「リセット」の恩恵を受けることができます。
しかし、「リセット」の能力も万能ではなく、いくつかの穴もあるため、緊迫感を失わずに済んでいます。

能力者の弊害なのかどうかは分かりませんが、登場人物たちは何かが欠落しています。
それは感情だったり自己意識だったりと様々です。
そんな彼、彼女らだからこそ、僅かに見せる感情の吐露が激しく感じられます。

やっていることは派手なはずなのに、透明感のある不思議な作品ですね。
文章が繊細で、落ち着いた雰囲気が素晴らしい。
田舎の山奥に流れる川のように、綺麗でゆったりとした文体はいつまでも読んでいたいと思わせてくれます。

椎名優さんのイラストも、透き通った雰囲気を与えるのに一役買っていますね。
半ページのイラストも効果的に挿入されており、非常に良かったです。
欲を言えば、もう少し枚数が欲しかったかな。

続きが出るそうなので、今度もぜひ買いたいと思います。

透き通った文章から伝わる雰囲気が素敵

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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時載りリンネ! 1 はじまりの本 

時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)時載りリンネ!〈1〉はじまりの本 (角川スニーカー文庫)
(2007/07)
清野 静

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読書期間:2009/4/4~2009/4/9

【評価……C
設定 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
物語 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4
人物 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4
文章 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
挿絵 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
 … 2
オススメ度 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4

200万字の本を読むことでたった1秒だけ、時を止めることができる一族“時載り”。
バベルの塔に住み、本を取得することで生きている彼らだが、わざわざ人間界にやってくる変わり者もいる――それが僕の隣の家に住む幼なじみの少女・リンネだ。
「わくわくするような大冒険がしたいな」というリンネの一言により僕らは、時間を自由にまたぎ歴史の中に住む死の集団“時砕き”が所有する、“誰にも読めない本”を巡る冒険を始める――!

【感想】


評判が良かったので買ってみたものの、しばらく積んでいました。
昔は電撃文庫よりも読んでいたスニーカー文庫ですが、ハルヒの刊行がストップした辺りからホント読まなくなったなぁ。

そんな話はさておき、感想です。

内容を一言で説明すると、スニーカー文庫版の文学少女シリーズ。
ただし登場人物の平均年齢はグッと下がり、12歳の少年少女たちが主役を張っています。

200万字の活字を読むことで、指定した対象を1秒間だけ時を止めることができる種族「時載り」。
そのうちの1人である少女・リンネは、時載りなのに読書が嫌いで、部屋の中にいるよりも外で遊びたい活発な女の子。
そんな彼女の思いつきに振り回される幼馴染み・久高の一人称視点で物語は展開されます。

うーん、期待しすぎた面も否定はしませんが、何とも微妙。
巷で絶賛されているほどではないかなと思いました。

ノスタルジックな雰囲気や、背伸びしたいお年頃な少年少女の魅力は、そこそこ引き出せているように感じます。
時を止める設定を始めとした、作品を面白くさせてくれそうな要素はいっぱい詰まっています。
それは、あらすじからも見てとれると思います。

しかし、物語の見せ方が悪いため、今一つな印象を受けてしまいます。
素材は良くても調理の仕方を間違えれば料理として失敗するような感覚です。

ストーリーの繋ぎ方が雑。
作者にとっての都合の良さが感じられて、残念。
例えば、周りの大人が主人公たち子どもに合わせ過ぎで萎えてしまいました。

登場人物の年齢が低めなのはまぁいいんですが、それならそれでバトルシーンなどにページを割かずにほのぼの路線で行くべきだったかと。
逆にこの路線で物語を展開させたいのであれば、もう少し年齢を引き上げた方がよかったですね。

そして、「200万字の文字を読むことで1秒の時間停止」という最大のポイントを上手く表現できていないのが一番勿体無い。
無駄に浪費し、適当に吸収しているところを見ると、希少性が低く見えてしまうんですよねぇ。

惜しいというよりかは、僕個人が性に合わなかったってところですかね。

無邪気な子どもたちのひと夏の冒険が繰り広げられています

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  時載りリンネ!  清野静  古夏からす  評価C 

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会長の切り札 一芸クラブに勝機あり! 

会長の切り札  一芸クラブに勝機あり! (角川スニーカー文庫)会長の切り札 一芸クラブに勝機あり! (角川スニーカー文庫)
(2008/11/01)
鷹見 一幸

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読書期間:2009/3/15~2009/3/18

【評価……B-
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
人物 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
文章 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
オススメ度 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6

楢山高校・生徒会長の朋絵は頭を悩ませていた。高校統廃合の新たな条例により、学校の存続が高校生同士の勝負によって決定されることになったのだ。
ところが、相手は文武両道の熱血男子高校、対する楢高はゆる~い校風の共学校。生徒たちのやる気はゼロ、諦めムードが漂う生徒会――しかしその時、切れ者副会長の光明だけは、役立たずの同好会に活路を見出していた!
これぞ現代版国盗絵巻、高校生たちの熱き合戦がここに火蓋を切る!!

【感想】


「でたまか」シリーズなどで有名な鷹見一幸さんの新シリーズ。
著者の本は、これが初めてとなります。

表紙買いでしたが、中身もそれなりに楽しめました。
やけに説明的なところは惜しいものの、興味深い舞台背景でした。

ここ数年進展を見せない町村合併の裏で、深く絡み合う高校統廃合の問題。
いつものように協議会では進展しない会議が行われていたが、とある女子高生の一言が波紋となり、町内問題は委ねられることに。
これといって取り柄のない楢山高校は、副生徒会長である所光明を筆頭に学校の存続をかけて策を練る……というお話です。

どたばたギャグ路線かと思いきや、意外にもまともな学園ドラマでした。
もちろんコミカル要素も盛り込んでありますが、ストーリー重視であくまで笑いの要素は控え目です。
主人公の光明が非常に優秀な軍師で、勝つための戦略もさることながら、周りを巻き込ませるテクニックには感心させられます。
次第に規模が大きくなっていく話に、ワクワクさせられました。

しかし、話の見せ方に少々問題があったように感じます。
光明があれやこれやと策を張るのはいいんですが、その多くが準備段階でネタバレになってしまう点は再考して欲しいところ。
当日の勝負は、ただ消化するだけの代物と化していて盛り上がりに欠けました。
せっかく頭の切れる主人公ですから、想定外の事象が起きた時の対応とかも見てみたかったですね。

あとキャラは粒は揃っていますが、ほとんど光明がおいしいところを奪っちゃってるんで出番が少ないのは悩ましい。
特にヒロインである会長の早乙女朋絵の存在感のなさは可哀想なぐらいです。
2巻では頑張ってくれると嬉しいですがね。

KeGさんのイラストは安定して素晴らしかったです。
気になってイラストレーターをググってみたら、ずっと前によくHPを見てた絵師さんで驚きました。
今でも時々新着イラストが来ていないかとHPを訪問していましたが、名前をすっかり失念していました。
同人作家さんという記憶だったけど、当時からプロのイラストレーターだったかなぁ?
うーむ、どちらにせよ感慨深い。
ラノベの挿絵もいいけど、この方の絵は1枚絵のカラーCGこそ力を発揮できる分野だと思いますね。

KeG氏のHP「YELLOW LIFE」
http://www009.upp.so-net.ne.jp/keg/

策士の生徒会副会長が学校存続のために頭を巡らせる話

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  会長の切り札  鷹見一幸  KeG  評価B- 

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DOORS Ⅱ新たなる敵を修繕せよ! 

DOORS  II 新たなる敵を修繕せよ! (角川スニーカー文庫 46-19)DOORS II 新たなる敵を修繕せよ! (角川スニーカー文庫 46-19)
(2008/04/01)
神坂 一

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【評価……C+
舞台 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
物語 ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
 … 2
人物 ★★★☆☆☆☆☆☆☆
 … 3
文章 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4
挿絵 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
オススメ度 ★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
バカ ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
ギャグ ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6

「おまえは、奈落の公爵アスモデウス・ミヤ!」って言われたって、何のことかわからないわよっ!!わたしはフツーの女子高生のミヤなんだから!おかしくなった世界をなおすためにドアをくぐり飛び込んだ異世界で、いきなり現れたおじいちゃんに、そんなこと言われてびっくり。おまけに世界修繕の必需品レンチも奪われちゃって、世界は本当になおせるの!?仲良し姉妹のパラレル・コメディ、驚愕の完結編!!

<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>

妹がリスや触手になってしまった世界を直そうと異世界へ乗り込む姉の話、第2巻にして完結。

1巻同様に脈絡もなく変なことが常識として定着しており、唯一本物の現実を知るミヤの気苦労たるやはかりしれません。
前回のカウンセリングに通うミヤの姿には笑いを越える痛々しささえありましたね。

今回のストーリーは、ちょっぴりシリアスな展開に。
真面目な話なんてこの作品には合わないなと思っていましたし、実際にミスマッチしてますねぇ。
結局、シリアス要素は全く必要なかったんじゃないかなと読み終えてから思いました。
まぁ、基本はおふざけ全開の話なので、同じような感覚で読むこともできますけど。
最終話が予想外にしんみりとしたものだったので、読了感は微妙かなぁ。

しかしながら、触手のインパクトは絶大でしたね。
さすがにそれを越えるようなものは残念というか当然というかありませんでした。
おかげでインパクトはかなり薄れてしまいましたね。
このままダラダラ続けていても似たような話しか書けないと思って、あっさり2巻で終了したのかもしれませんね。

悪くはないけど、普通の作品になってしまったなぁという印象です。
2巻で完結したので、ライトノベル読者の新規開拓には向いていそうですね。
頭を使わずに気楽にライト感覚で本を読みたいのであれば、選択肢の1つとしてありだと思います。

うーん、基本的に1巻と同じ流れなので改めて感想を書くようなことがないなw

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  DOORS  神坂一  岸和田ロビン  評価C+ 

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DOORS Ⅰまぜこぜ修繕屋 

ドアーズ 1 (1) (角川スニーカー文庫 46-18)ドアーズ 1 (1) (角川スニーカー文庫 46-18)
(2007/08/31)
神坂 一

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【評価……B-
舞台 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
物語 ★★★☆☆☆☆☆☆☆
 … 3
人物 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4
文章 ★★★★☆☆☆☆☆☆
 … 4
挿絵 ★★★★★☆☆☆☆☆
 … 5
オススメ度 ★★★★★★☆☆☆☆
 … 6
バカ ★★★★★★★★
 … 9
ギャグ ★★★★★★☆☆☆
 … 7

ふつーの女子高生ミヤが、目を覚ましたら、なぜか家中がドアだらけになっていた!しかも妹のチサはリスになるし、テレビからウニョウニョは飛び出すし、ハチは巨大化するし、もうめちゃくちゃ!?幸せな日常を取り戻すために、ミヤはドアをくぐり世界修繕の旅に出る。だけどたどり着いたのは、“妹”が全人類を支配している世界だったり、魔王が地獄から蘇っている世界だったりで……!?
仲良し姉妹の超常的パラレル・コメディ!!

「スレイヤーズ!」シリーズで有名な神坂一氏のコメディ作品。
アニメの「スレイヤーズ!」を観る前に読んだので、これが著者の作品に触れた初めての作品となりました。

世界の常識が歪んでしまったことに唯一気づいている女子高生ミヤが、突如現れた家中に張り巡らされているドアから別世界に行き正しい姿に戻そうというお話。
妹のリサは何故かリスになっちゃってるし、リサ以外の妹もリスになっちゃってるし、それが当然だと思っている世界の中で、正常(たぶん)な意識を保ち続けているミヤの笑いと涙の奮闘記です。

この作品だけなのか、それとも著者の特徴的な文体なのか、文章を終りまで言い切らないところがあります。
「~していて。」とか「~で。」みたいにぶつ切り満載です。
これがどうにも引っかかってしまい、最後まで馴染めず仕舞いでした。
正直、読み辛かったんですが、僕だけなのかな。

物語は、とんでもないカオス

ここまで何でもありなラノベは初めてです。
何だろうこの馬鹿馬鹿しさはw

作者が思いついたネタを片っ端から投入して、後から話になるように適当に調理したような感じ。
あとがきで作者が「成分の半分は作者のいいかげんさでできています」といっていますが、まさにそんな感じ。
これ、読者よりも作者の方が絶対に楽しんでるよ。間違いないw

そもそも僕がこの本を手に取ったキッカケは「このライトノベルがすごい!2008」の『心が震えた名セリフ!』コーナーで、この作品の中から選ばれた文章を読んだことでした。


 某月某日。
 妹が触手になった。
 だめです。
 これはだめだと思います。


このくだりのインパクトは絶大。
何といっても触手ですよ?あのウニョウニョと形を変形させるアレになる妹って、一体どういうことだっ。どれだけ妄想したやら!
ああ、誤解の内容に言っておきますが、やましいことなんて考えていませんよ。どちらかといえば、触手は苦手な方なくらいです。ええ、ホントです。
しかし、こんな奇想天外な話、興味がそそられないわけにはいかないでしょう!
それで注目するようになり、ちらほらとコメディとしての評判がいいのを耳にしたので、買うことに至ったわけでした。

でも、第1章を読み始めて予想外のつまらなさで久々に失敗したか?という思いがよぎりました。
ごめんなさい。僕が間違っていました。それはあまりにも早急な感想でした。
第2章からは、笑いのキレが格段にレベルアップしますね。
畳み掛けるような笑いではなく、一撃必殺の笑いで声を出して笑ってしまいました。

特に触手のくだりは、想像以上の気持ち悪さ……じゃなくて、インパクト。
これは吹かざるを得ないですw
来るぞ来るぞと身構えていても、その防御を貫くほどの笑いがあるんですよ、これがw

薄めの本で頭を使わずに勢いで読めてしまいますので、ちょっと息抜きしたい時にお勧め。
逆に、2ちゃんねるのノリが苦手とか、軽すぎる話は抵抗があるという人にはお勧めできません。
点数では表わしにく面白さがあり、ハマった人ならべた褒めしてもおかしくないなと思いますね。
深く考えず、笑ったもん勝ちの本です。

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  DOORS  神坂一  岸和田ロビン  評価B- 

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