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明日へと続く記憶

漫画、アニメ、ゲーム、音楽、ライトノベルの感想を書いたり、絵を描いたりしています。

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サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA 

サクラダリセット7  BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)
(2012/03/31)
河野 裕

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読書期間:2012/4/27~2012/4/30

【評価……A
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★★
 … 9
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★★
 … 9
恋愛
透明感
切なさ
構成
完成度

 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★
 … 9


 「私が将来の夢を失くしたのは、貴方に出会ったからよ」
 能力を失くした相麻菫。
 「私は貴方を、覚えていません」
 能力を失くした春埼美空。
 改変された咲良田で、ケイはひとり、ふたつの記憶――街に能力が存在する本物の記憶と、能力が消滅した偽物の記憶――に直面していた。
 自らの過去に区切りをつけるため、ケイは初めて咲良田を出て――。
 複雑でシンプルな、大人のような少年がたったひとつを祈り続ける物語。堂々完結!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


物理法則に従わない能力を所持する者が住む街、咲良田。
人が能力を使用することの意義を問うシリーズ最終巻です。

とても素晴らしい物語でした。
直感で読み始めた作品でしたが、出会えたことに感謝したいです。

全てを見通した上での構成が、尋常ではない完成度にまで引き上げています。
作者自身公言している通り、これ以上の過不足はないでしょうね。
作品内の雰囲気だけに留まらず、シリーズ構成までもが美しく整っているなんて、相当緻密な設計をしていない限り不可能なことです。
予定通りの巻数で終われるだけの売れ行きがあって、本当に良かったと心から思いますね。

1~6巻までに登場してきた人物、能力のいずれもが関わっていることに衝撃を覚えます。
7巻を最初に書きあげて、その後に辻褄を合せるよう物語を組み立てたと言われても疑わないですよ。
適材適所が見事過ぎて、ある意味でご都合主義に見えてしまうほどです。

しかし、それは使う立場がいてこそ初めて輝くもの。
未来視能力を持った相麻ではなく、人よりも少し記憶力の良いケイが導いたことに驚かされます。

理想論を語る主人公なら数え切れないくらい存在します。
それらの多くは、言葉だけが立派で、蛮勇といってもいいものです。
または己の力を過信し、結果論で語る暴力的な思考によります。

しかし、ケイは違います。
彼は自分がどれだけ聡くて、どれだけのことが可能なのか正しく判断できる人間です。
春埼や相麻が絶対的に信じるのは、彼ほど透き通った心を持った人間がいるとは思えないからでしょう。

誰よりも傲慢なのに、目指すべき境地が夢のように心地良い。
彼の夢に乗っかり、理想に浸っていたい。
中野智樹、村瀬陽香、岡絵里、坂上央介、宇川沙々音。
ケイの周りにいる人間は、一括りには出来ない想いを抱いているけれど、みんな彼に惹かれている。
友情であり、嫉妬であり、憧れでもあるそれを人はカリスマと呼ぶのでしょう。

当たり前のことを当たり前にできるのが如何に難しいことなのか。
完璧主義者でありながら切り捨てる勇気も併せ持つケイの凄みが、坂上の台詞に集約されていました。

無垢というより無味な人格だなという第一印象が嘘なほどに春埼は変わりましたね。
作中でも関わり合いの薄い立場から見ると、春埼は意志のない人間に見えるんでしょう。
でも、ここまで物語を追ってきた読者からすると、ぬりえの前と後くらい別物に感じられます。

ケイを通じることで、相麻菫が如何に非情な立場にあったのかを痛感します。
前回で散々泣いた相麻が、なおも苦境に立たされ続けないといけないことに嘆くことしかできません。
それでも、少しでもケイや春埼が彼女の肩代わりができれば、救いとなるのかなと勝手ながらに思いました。

管理局との対立は、そのままケイと浦地による手札の切り合いと化していましたね。
お互いの手の内を読み合う様は、形勢が頻繁に入れ替わり、読み応え抜群でした。
頭脳的な能力バトルは大好きなので、知略戦には心躍りましたね。
雰囲気を大きく壊すようなこともなく、あくまで物語を構成する一つの要素に留めてくれていたのも良かったです。

散りばめられた伏線は、概ね回収されています。
ケイの名前がカタカナ表記だった理由など明かされないと思っていたので、あのくだりは嬉しかった。

潔癖すぎるぐらい綺麗なお話でした。
余分な成分を一切取り除いた後に残された二つの側面は、どちらも正しく、恐ろしいほどに純真で。
人々の感情を大切な宝物のように扱う彼や彼女たちは、とても素敵な人でした。

口絵のイラストは、最後まで高クオリティ。
椎名優さんの優しくも洗練されたタッチによるイラストが、素晴らしい相乗効果を生み出していました。
また次のシリーズもこのコンビによる作品を読んでみたいですね。

矛盾の中に潜む真実を求めて、少年が我儘に己の世界を求める物語

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価A 

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サクラダリセット6 BOY, GIRL and ―― 

サクラダリセット6  BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)サクラダリセット6 BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)
(2011/11/30)
河野 裕

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読書期間:2012/1/24~2012/1/28
月間マイベスト作品

【評価……A-
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★★
 … 9
挿絵 ★★★★★★★★★
 … 9
恋愛
透明感
切なさ
構成


 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★★★
 … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8



 「これで、最後だから。たぶん、あと数日で、すべて終わる」
 復活後、姿を見せなかった相麻菫。しばらくぶりの彼女からケイへの連絡は、奇妙なものだった。
 一つ目は、春埼と一緒に交差点でゴミ拾いをしろというもの。
 一方、管理局対策室室長・浦地は“咲良田のリセット”――全能力の消滅を目論んでいた。彼は未来視能力を持つ二代目魔女・相麻に接触し……。
 初代魔女が名前を失う前、咲良田の「始まりの一年」が明らかに!最終章突入!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


壮大な舞台で綴られるのは、少年と少女の恋物語。
能力の是非を問うクライマックス突入のシリーズ第6巻です。

何という切なく、そして綺麗なお話。
この作者が紡ぎ出すキャラ、言葉使い、雰囲気。
いずれも美しいという言葉がピタリと似合います。
透き通った文章が、静かに心の奥深いところへと沈む込んでいき、離しません。
期待通り面白かったです。

遂に明かされる咲良田の始まりと、相麻菫の意図。
秘められた過去に気が付いた時、一言では言い表せられない想いが胸に込み上げてきます。
数々の伏線がたった一つのことへと収束しく様は圧巻で、様々な関門を貫いて届く想いを美しいと言わずとして何と表現すればいいのか分かりません。

相麻菫の悲痛なる決意を思うと、吐息が重くなります。
傍から見れば、たったそれだけのことであっても、彼女は文字通り身を投げてまで守りたかったのか。
彼女が抱える愛情の深さに涙腺が刺激されっぱなしです。
覚悟を決めた人間の格好良さに男も女も関係ありませんね。

ケイ、菫、そしてもう一人の主役となる浦地正宗。
彼らが幸せを求め、それぞれの世界を望み、我を通す行為に嫌悪感を抱かないのが凄い。
この作品の素晴らしいところは、皆が純粋に心を追い求めるところにあると思いますね。

脇を固める役柄も欠かせません。
全てはこのために配置していたのかと言わんばかりに、集うピース。
余すところなく全員が物語に関わり合い、ケイに影響を与えていく構成には目を瞠ります。
最初から完成形がある程度出来ていないと作れませんよ、これは。

小説に華を添える椎名優さんのイラストは、相変わらずの画力で文句のつけようがありません。
春埼の作り笑顔から、菫の慟哭まで、いずれも脳内に直接焼きついたかのように覚えています。
冒頭で登場人物紹介を載せてくれたことも有難い配慮でした。

能力は、人を幸せにするか否か。
最終巻を読むのが今から楽しみでなりません。

少女の苦しみと慈しみが詰まった未来が、優し過ぎて切なくなります

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価A- 

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サクラダリセット5 ONE HAND EDEN 

サクラダリセット5  ONE HAND EDEN (角川スニーカー文庫)サクラダリセット5 ONE HAND EDEN (角川スニーカー文庫)
(2011/04/28)
河野 裕

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読書期間:6/23~6/27

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
構成
安定感



 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 「私を普通の女の子にすることが、貴方にできる?」
 復活した相麻菫。ケイは彼女に、咲良田の外に――能力が存在しない世界に移住することを提案する。だがそれが上手くいくのか、彼にも分からなかった。
 確証を得るため、ケイは管理局の仕事を引き受け、春埼、野ノ尾とともに、九年間眠り続ける女性の「夢の世界」へ入る。そこでケイは、ミチルという少女と青い鳥に出会い――!
 “咲良田”とは?能力とは?物語の核心に迫る第5弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


特殊能力を有する若者たちが、真摯に幸せを追求するハートフルストーリー第5弾。
透明感のある雰囲気は、今巻も継続しています。

久々の本編ですね。
3巻は9割が過去編、4巻は短編集だったこともあり、ようやく物語が再始動しました。
ただし、今回はサブストーリーに本筋の種蒔きを散らしたかの内容ですがね。

中身は、安定した作りで楽しめました。
妙に哲学的な会話が面白く、気が付いたら読み終わっています。
丁寧語の会話が機械的なやり取りだからこそ、言葉に含まれる人肌に触れたかのような温もりが伝わってきますね。

ほのかに温まる優しさと、残酷な消失が表裏一体となっている話でした。
泣きたくなるくらい切ないけれど、救いのあるラストのおかげで、読了感は素晴らしく晴れやかです。
若干インパクトが不足気味ですけれど、及第点はクリアしていると思います。

一人でも多くの笑顔を実現しようと奔走するケイの理念は、凄く心地良い。
現実を脱線しない程度に理想を追い求める彼の努力は、一種の恐ろしさを覚えるほどに純度が高く眩しく見えます。
個を消しているようで、誰よりも我が強いところが好きですね。

登場人物たちが曇ることなくクッキリと描かれる裏で、細かな設定や伏線が配慮されています。
能力の組み合わせ方が絶妙で無駄がないのは、もはや言うまでもなし。
積み重ねていく土台の安定感は見事です。

この作品、刊行順に読んでいても時間軸が激しく前後するので、中間部分が不透明ですね。
意図的に隠された事実が含まれているんでしょうけど、少々把握し辛いのが難点かな。
相麻菫の計画や、管理局内部の思惑が少しずつ見えてきて、シリーズの根幹部分が判明しつつありますが、終着点はまだまだ見えないですね。

きっと作者の頭の中では、完成図が出来あがっているんでしょう。
空いている箇所にピースを一つずつ埋めていくパズルを彷彿とさせる構成で、隙がありません。
刊行が空いてしまうと忘れてしまいそうなので、一気に読みたいですね。

大切な少女のために手段を選ばない主人公が格好良い

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B 

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サクラダリセット4 GOODBYE is not EASY WORD to SAY 

サクラダリセット4  GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)サクラダリセット4 GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)
(2010/11/30)
河野 裕

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読書期間:2010/12/17~2010/12/20

【評価……B
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 7
透明感
切なさ




 ★★★★★★★★☆☆ … 8
 ★★★★★★☆☆☆
 … 7





 「リセットを、使えません」
 相麻菫の死から二週間。浅井ケイと春埼美空は、七坂中学校の奉仕クラブに入部する。二人は初めての仕事を振られるが、春埼はリセットを使えずにいた。相麻の死をそれぞれに考えるケイと春埼。ケイは、相麻が死んだ山へと向かい……。(「Strapping/Goodbye is not an easy word to say」)。
 中学二年の夏の残骸、高校一年の春、そして夏――。壊れそうな世界をやわらかに綴る、シリーズ第4弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


タイトルだけでは分かりませんが、シリーズ初の短編集となっています。
とはいえ、本編に密接する重要な要素もあるため、読み飛ばしは避けた方がいいでしょう。

ほとんどが「ザ・スニーカー」で掲載されたもので、書き下ろしは一本のみとなります。
その唯一が3巻ラストの続きであり、あらすじにある「Strapping/Goodbye is not an easy word to say」ですね。

相麻菫の死後間もない時期ということもあり、沈痛な空気が肌に突き刺さる話でした。
ケイと春埼の距離感や関係が今に至った理由が明らかとなります。
この二人の特殊性は、とても一言では言い表すことはできませんね。
言葉を交わし過去を積み重ねてきた結果、お互いを求める理由が出来ていた、ということでしょうか。
感情量は細い糸のようなものなのに、結びが強固で解ける気配がありません。
しかし、何だかこの糸が近い未来に切れるようなことがありそうで、不安を覚えました。

その他の短編も少し切なく、だけど優しいエピソードとなっています。
澄んだ空気の表現力が本当に素晴らしい作者さんですね。
短編集となっていても、シリーズ通しての透明感のある雰囲気は失われていません。

その一方で、短編の合間に挟まれているショートショートは、ほんわかとしていて面白い。
春埼視点で描かれるあったかいエピソードで、彼女の魅力が随所に出ていました。

・「ホワイトパズル

最後に「サクラダリセット」と全く関係のない短編が収録されています。
過去に「ザ・スニーカー」で掲載されたらしく、作者にとってのデビュー作であるそうです。
「サクラダリセット」の告知をする意図もあって、雰囲気が酷似しているため、最初はシリーズに関連する作品だと思っていて、半分ぐらい読んでようやく別物なんだと気付きました。

綺麗な空気や洗練された文章は、まさに作者ならではといった感じ。
設定は凝っていても見せ方はシンプルで、テーマにブレがありません。
登場人物たちの儚い想いが心に染み込むようでした。
これだけでも今巻を買う価値があったと思えるぐらい面白かったです。

それにしても、半ページだけの挿絵や関係のない短編が入っているのをみると、少女漫画を連想してしまうのは自分だけでしょうか。

本編よりも恋愛要素が香る切なく優しい短編集

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B 

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サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN 

サクラダリセット3  MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)
(2010/08/31)
河野 裕

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読書期間:2010/10/7~2010/10/9

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
安定感




 ★★★★★★★★ … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8





 「どうして、君は死んだの?」
 “記憶保持”の能力をもつ浅井ケイ、“リセット”の春埼美空、そして“未来視”の相麻菫。
 二年前。夏の気配がただよう、中学校の屋上で、相麻は問いかけた。
「私たちの中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」
 夏の終わりに向けて、三人は考え続ける。アンドロイドは誰?最も人間からかけ離れているのは、誰――?
 二年前死んでしまった少女と、すべての始まりを描く、シリーズ第3弾!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


特殊な能力者が集う街・咲良田で、少年と少女たちが織りなす不器用で優しい物語、第3弾。
物語の始まりとなる、浅井ケイ・春埼美空・相麻菫の3人の出会いを描いた過去編となっています。

とても美しい物語でした。
読了後の感覚は、哀しいのか、嬉しいのか、自分でも判断がつきません。
しかし、この本に出会えて良かったということだけは確実です。

このシリーズを読んでいて毎回思うんですけど、まるでガラス細工のような物語ですね。
透き通るように綺麗な美術品のような印象と、砕け散ると元に戻せない危うさを感じさせます。
更に今回は、ラムネの瓶という小道具が、より一層そのイメージを強固にさせる手助けをしています。

ガラス細工」という表現を複数の感想記事で見かけましたが、これって何気に凄いことですよ。
作中で使用しているフレーズならともかく、印象の具現化が一致するってことは、それだけ作品の雰囲気が一貫して描かれているということですから。
空気を思い通りに表現できる作家さんは、貴重ですね。

洗練され、研ぎ落された文章が、恐ろしく魅入ります。
余計な装飾がないシンプルさは、直接心に侵入してきて、全身に響き渡るようです。
温もりとはまた違う、人間味を肌で感じ取ることができるような言葉選びにはセンスを感じずにはいられません。

はっきりいって高校生でも違和感あるのに、小中学生の思考としては賢すぎる状況判断などもあるんですが、三者三様の理由で何となく納得できてしまうのは登場人物の掘り下げが成功しているからでしょうか。
その中でも顕著なのが、浅井ケイの捻くれた善人っぷりです。
彼の思考回路は複雑に見えて本質は単純なんだけど、それをひた隠しにしているために裏表があるように見えるんですよね。
相麻菫や中野智樹が上手い表現で指摘なり説明なりしていましたが、それでようやく少しケイを理解できたような気がしました。

春埼美空の感情が乏しい理由は、なんとも皮肉でした。
この娘の純粋な心は、知れば知るほど無垢すぎて怖くなってきますね。
完全な無色透明ではなく、ほんの僅かながら色付けされていることが、彼女の人柄の良さを表わしているんだけど、彼女自身がそれに気付かないんですよねぇ。
もどかしいと感じるケイの気持ちに共感しましたよ。

そして、謎に包まれていた相麻菫の人物像や能力、そして2年前に死んだ経緯が明かされます。
まだ中学生の彼女が抱える運命や未来の重さは、質量があるかのように圧し掛かってきます。
真実を知った時、切なさとか苦しみよりも、嘆きが先に出てきました。
最後のあの言葉は、果たして彼女に届いたのかな……。

ケイが咲良田に来た理由、家族と離れている訳、土台となる環境は出揃いました。
しかし、一つの謎が明かされたと同時に、新たな謎が生まれています。
何故、彼女は死ななければならなかったのか。
ここからが本当の始まりなのかもしれませんね。

ある一つの未来が決まっているボーイミーツガール

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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サクラダリセット2 WITCH,PICTURE and RED EYE GIRL 

サクラダリセット2  WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL (角川スニーカー文庫)サクラダリセット2 WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL (角川スニーカー文庫)
(2010/02/27)
河野 裕

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読書期間:2010/7/24~2010/7/29

【評価……B+
発想 ★★★★★★★★☆☆ … 8
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
人物 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感
構成
完成度



 ★★★★★★★★ … 9
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
 ★★★★★★★★☆☆
 … 8




 「貴方は、貴方の未来を知りたい?」
 能力者が集う街、咲良田。記憶保持の能力を持つ少年・浅井ケイと「リセット」能力を持つ少女・春埼美空は、管理局の要人に呼び出される。名前を持たず、「魔女」と名乗るその初老の女性は、30年近く隔離され、窓一つない部屋に住んでいた。彼女の能力は、未来を見ること。その役割は、咲良田の未来を監視すること。そして魔女は、自身の死期が近いことを知っていた――。待望の第2弾!!

【感想】<前巻までのネタバレがありますので、ご注意ください>


瞬間記憶能力を持つ少年と、最大3日間巻き戻す能力を持つ少女によるハートフルストーリー第2弾。
話題作となった1巻から結構期間が空きましたね。
理由はあとがきにありましたが、まぁ体調にはお気を付けくださいとしか言えませんw

咲良田の街に集う能力者を統治する組織「管理局」には、未来を知る能力者「魔女」がいた。
彼女は、自身の死期を悟り、ある目的から浅井ケイと春埼美空に接触を求める。
それと時を同じくして、ケイに接近する人物が複数現れて……という流れで物語が始まります。

うん、これはいい。
穏やかでありながら少し切なく、洗練された物語が心に響きます。
まるで、森林に囲まれた静かな湖に小石を投じて形成される波紋を眺めるような感覚ですね。
ただ面白いだけではなく、趣きがあります。

ちょっぴり怖さを感じるほどに綺麗な雰囲気が素晴らしい。
主人公のケイと、ヒロインの春埼が丁寧語を標準で話すこともあって、言葉が凄く美しいんですよね。
一見、感情がフラットに見える二人ですが、だからこそ些細な変化がはっきりと伝わってきます。 
雰囲気を統一させる作者の腕に惚れ惚れします。
新キャラも安易に出しているわけではなく、必要最低限に絞っているのも好感が持てますね。

時間を巻き戻す「リセット」の能力の使い方も巧い。
この手のギミックは、能力が優秀すぎるが故に粗が目立つことが多くあります。
しかし、この作品において、決定的なミスや矛盾は見られません。
能力の組み合わせによる可能性の拡大がお見事で、構成に隙がないのが素晴らしい。

1巻の内容も絡めて伏線を張り直し、新たに展開することに成功した2巻だったと思います。
椎名優さんのイラストが、完璧といえるぐらいに作風とマッチしていて、完成度を高めていますね。
400ページの長編でしたが、飽きたりすることなく最後まで楽しんで読むことができました。

繰り返しに意味のある物語に目を惹かれます

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY 

サクラダリセット  CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
(2009/05/30)
河野 裕

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読書期間:2009/6/27~2009/6/30

【評価……B+
設定 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
物語 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
人物 ★★★★★★★☆☆☆
 … 7
文章 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
挿絵 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
オススメ度 ★★★★★★★★☆☆
 … 8
透明感 ★★★★★★★★☆☆
 … 8

「リセット」たった一言。それだけで、世界は、三日分死ぬ――。
能力者が集う街、咲良田。浅井ケイは、記憶を保持する能力をもった高校一年生。春埼美空は、「リセット」――世界を三日分巻き戻す能力をもっており、ケイの指示で発動する。
高校の「奉仕クラブ」に所属する彼らは、ある日「死んだ猫を生き返らせてほしい」という依頼を受けるのだが……。
リセット後の世界で「現実」に立ち向かう、少年と少女の物語。

【感想】

超能力者が集まる街で起こる少年少女たちのハートフルストーリー。
帯にて乙一氏が大絶賛しています。

久しぶりに事前情報なしで買った本です。
いつもなら評判などを調べてから買うことにしているんですが、この本は店頭であらすじを読んだときの「面白そう」という直感を信じて買いました。
その直感は間違っていなかったようです。
今ではネット上でも良い評判が各所で見られます。

これは当たりでした。
読んでいる最中は設定が面白く、読み終わった後は少し優しい気分になれる良作です。

まず最初に惹かれたのが「リセット」と発するだけで3日分を巻き戻すという能力。
時間移動モノが大好物な自分としては、これだけで飛びついてしまいます。
しかし、ただそれだけの設定ではなく、さらに練り込んであるところが好感を持てます。

「リセット」の能力者であるヒロイン役・春埼美空は、自らの記憶までもリセットしてしまいます。
一度見聞きしたものを忘れない能力を持つ主人公・浅井ケイと一緒に行動することによって、「リセット」の恩恵を受けることができます。
しかし、「リセット」の能力も万能ではなく、いくつかの穴もあるため、緊迫感を失わずに済んでいます。

能力者の弊害なのかどうかは分かりませんが、登場人物たちは何かが欠落しています。
それは感情だったり自己意識だったりと様々です。
そんな彼、彼女らだからこそ、僅かに見せる感情の吐露が激しく感じられます。

やっていることは派手なはずなのに、透明感のある不思議な作品ですね。
文章が繊細で、落ち着いた雰囲気が素晴らしい。
田舎の山奥に流れる川のように、綺麗でゆったりとした文体はいつまでも読んでいたいと思わせてくれます。

椎名優さんのイラストも、透き通った雰囲気を与えるのに一役買っていますね。
半ページのイラストも効果的に挿入されており、非常に良かったです。
欲を言えば、もう少し枚数が欲しかったかな。

続きが出るそうなので、今度もぜひ買いたいと思います。

透き通った文章から伝わる雰囲気が素敵

テーマ: ライトノベル

ジャンル: 小説・文学

タグ: 書評  サクラダリセット  河野裕  椎名優  評価B+ 

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